ぼんやりお姉さんと狼少年
第30章 始祖の子との対峙 後編*
「………ねえ、それからどうしたの?」
そんな幼い男の子の声にそっと目を開くと視界に広がるこれは一面の里の花畑。
降ってくると思っていたこれは、花びら……?
そうではなく、穏やかな風に吹かれる花霞。
少しばかり色のくすんだ枝葉を揺らし、疎らに散る花の色が昼下がりの陽の光に溶けている。
なぜこんな所に、いるんだろう。
そんな中、白髪の背の高い男性と、それに手を引かれる先ほどの男の子が私の前を歩いていた。
どこか映画みたいな、なにかの映像を観ているような感覚だった。
「供牙……様……?」
背の高い男性の方をそう呼んだ。
呼んだ後に髪と背格好が似ているけど、ふとその子を見下ろした時の、横顔が彼とは異なっているのに気付いた。
「可哀想だね。 結局その、始祖の人狼も亡くなったんでしょう?」
濃い茶色の髪の男の子。
幼いながらもややはっきりとした顔立ちのこちらは、色彩は異なるが雪牙くんと少し似ている。
まるで自分だけ別の次元に飛ばされた感覚。
私は……そうだ、牙汪と。
「痛」
ずきんと頭の……こめかみの辺りに痛みが走る。
「……お前もきっと成長すれば分かるやもしれぬな」
牙汪は、彼はここに来る直前になんと言ったか。
『琥牙って奴より────────』
違う。 その後だ。
頭がズキズキする。
『知りたいか?』
無理やりに記憶を手繰ろうとすると更に痛む。
だけど、思い出さなきゃならないような気がする。
『オレがこいつと惹き合った理由を───』
「でもおれ、成長したくないな」
俯いたままの男の子がぼそぼそと頼りなげな主張を父親らしき人物に投げる。
「……ほう? なぜだ」
「だって気味が悪いよ。 牙が生えて、獣なんかになったおれを、誰かが好きになってくれるの?」