ぼんやりお姉さんと狼少年
第35章 確かにある意味アイドル
それでも少しずつ、動作にブレが混ざってくる。
全く反撃しない琥牙にか、ことごとく外されている自分にか。
おそらく苛立ちが見えてきた様子の二ノ宮くんに琥牙が口を開く。
「保くん、違うよ」
突然視界から消えて、低く地面にしゃがんだ琥牙が、着けた腕の反動で上に翔ぶ。
その足先が、腰を曲げていた二ノ宮くんの顎を掠めたように見えた。
「えっ…」
もちろんワイヤーかなにかで釣ってるわけじゃない。
足が着いてない、空中で加速────────…をして、ザザンっ!! という音と共に頭上の木枝の隙間に潜り込んだあとに、太い枝を掴んだ。
そこからまた勢いをつけ、ぐるりと逆上がりみたいな回転をしてもう一段上へ。
彼が立っている傍のすぐそこは、丁度私たちの部屋のベランダだ。
「人がこっちに似せようとする真似事の動きなぞって、何になるの? そもそもやる場所なら、おれらなら地面に限んなくて、こんなとこでも有り得るわけで。 で、来れないんならとっくに逃げられてるよね。 寒いからもういい? 真弥も戻ってきなよ」
「にの………」
振り向くと、彼は憮然とした顔で肩を手で抑えながら、琥牙がさっさと部屋の中に入って閉められた窓を見上げていた。
あ、分かった。
あの時加速したのは蹴ろうとしたように見えた逆足で、二ノ宮くんを踏み台にしたのね。
器用だなあ。
「大丈夫?」
「へーき。 反動で軽く脱臼しただけだから、もう癖んなってるし」
折れてたりはしてなさそうだけど。
むしろ、だから逆に折れなかったのかな。
そう思ってたら顔を少ししかめてゴキン、と自分で無理矢理にそれをはめた。
これ、浩二もするけどホントは自分でやっちゃ駄目なやつ。
当分は無理に動かせないはずだ。