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ぼんやりお姉さんと狼少年

第36章 役立たずな言葉、饒舌な体*


私が下に着ていたTシャツを邪魔臭そうにたくし上げた時に、ピピッと生地がほつれる音がした。

一瞬躊躇っただけで、乳房の脇に歯を立てられたと思ったら、薄布が壊される音とともにただの端切れが辺りに舞った。
一気にずり上げられた下着からこぼれた肌に、膨らみのべつもなく彼の口内の器官が襲う。
吐く息の気配のすぐあとに皮膚を刺す。


「つッ」


自分の体を手で覆う暇もなかった。
………今そんなことをしても、振り払われてしまいそうだけど。


琥牙が苛立ってるのが私にも分かる。

私の足の爪先が頼りなげに床をさまよっている。
そんなことを気にも留めず、片腕を背中に回したまま、彼が自分の目線で私を愛し始めた。


手を添えて、寄せられた胸の中央に押し付けられる荒々しい舌と、既にその周りにいくつも滲んで散った、花びらみたいに重なる紅い跡。
その胸の先にもそんな痕を付けるのを試みようとしているのか、歯で囲いながら吸ってくる。


「んんン…ッ!」


そうされながら─────そんな光景をどこか他人事のように思いながら、なぜ私はこうしようとしたのかと自らに問いかけていた。


少しだけ色素の薄い、長く揃えられた睫毛が胸の谷間を移動していた。
その間も真っ赤に勃ち上がった乳首を指先で弾き続ける。


察しの良過ぎる彼。


……でも、見え過ぎるのはきっと辛いでしょう?
なのに彼はいつも重いものを抱えて。

そんな同情で、彼にこんなことをさせたのだろうか。
けれど少なくとも私は琥牙を可哀想だと思った。

こんなに綺麗な顔と体を持っていて、こんなにも優しくて力強いのに。


休みなく交互に与えられる痛みと、忍び寄る僅かな快楽に、漏れそうになる声を指を噛んで押し殺した。


何も見たくないかのようにかたく目を閉じた彼が、私にのめり込んでく。




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