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ぼんやりお姉さんと狼少年

第36章 役立たずな言葉、饒舌な体*


***
Make love なんて言葉、誰が考えたんだろう。
たかが動物だってする行為に大層な。

そんな風に思ってたことがあった。
でもいつもそこには、かけがえのない相手がいる。

それが終わったこんなときにも。


「寒いから着てなよ」


自分が着ていたシャツを羽織らせてくれて、リビングの明かりが寝室を薄く照らしている。

ベッド横の壁に背中をつけて、並んで座りながら琥牙が頭をこちらの肩にもたせかけてきた。


……ぽつりぽつりと、彼が話し始める。


「保くんとの裏庭の会話、聞こえてたよ。 ……おれは真弥にはいつもここにいて、ずっと笑ってて欲しかったんだ。 その記憶だけあって欲しかった」


私は硬い表情でその抑揚のない声に耳を澄ませていた。


「ごめんね。 おれはこうなっても、両方は持てない」


「…………」


「真弥を片方に抱えて戦える力なんてない」


そんな責任を押し付けるつもりない。
近くで彼を支えるために一緒に行くの。


「平気だよ。 私は自分で立てる。 琥牙と居るのは私の意思だから」


「分かってる。 だからなおさら」


「何それ、私はわかんない。 連れて行って……くれないの? 琥牙の歩く隣に、私はいないの?」


少なくとも、私の心や思いはそんなに弱くない──それさえも否定するかのような彼の発言に困惑した。

彼は重責から逃げるような人じゃない。 出来ればそうしたかったのは、分かっていたけど。


だけど、何よりどこへ行っても一緒にいると、そう約束した。


「真弥の大事なものはここにある。家族も仕事も」


そんなつもりなら、私たち二人の未来なんて初めからなかった。

余りにも身勝手だと、そう思った。



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