ぼんやりお姉さんと狼少年
第36章 役立たずな言葉、饒舌な体*
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Make love なんて言葉、誰が考えたんだろう。
たかが動物だってする行為に大層な。
そんな風に思ってたことがあった。
でもいつもそこには、かけがえのない相手がいる。
それが終わったこんなときにも。
「寒いから着てなよ」
自分が着ていたシャツを羽織らせてくれて、リビングの明かりが寝室を薄く照らしている。
ベッド横の壁に背中をつけて、並んで座りながら琥牙が頭をこちらの肩にもたせかけてきた。
……ぽつりぽつりと、彼が話し始める。
「保くんとの裏庭の会話、聞こえてたよ。 ……おれは真弥にはいつもここにいて、ずっと笑ってて欲しかったんだ。 その記憶だけあって欲しかった」
私は硬い表情でその抑揚のない声に耳を澄ませていた。
「ごめんね。 おれはこうなっても、両方は持てない」
「…………」
「真弥を片方に抱えて戦える力なんてない」
そんな責任を押し付けるつもりない。
近くで彼を支えるために一緒に行くの。
「平気だよ。 私は自分で立てる。 琥牙と居るのは私の意思だから」
「分かってる。 だからなおさら」
「何それ、私はわかんない。 連れて行って……くれないの? 琥牙の歩く隣に、私はいないの?」
少なくとも、私の心や思いはそんなに弱くない──それさえも否定するかのような彼の発言に困惑した。
彼は重責から逃げるような人じゃない。 出来ればそうしたかったのは、分かっていたけど。
だけど、何よりどこへ行っても一緒にいると、そう約束した。
「真弥の大事なものはここにある。家族も仕事も」
そんなつもりなら、私たち二人の未来なんて初めからなかった。
余りにも身勝手だと、そう思った。