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ぼんやりお姉さんと狼少年

第37章 Plan - Do


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『もう少し月の力が落ちる二、三日で戻りますから──────…』


伯斗さんが去り際にそう言った。


思えば不思議なものだ。
私たちがいるこの星は、月の引力に導かれ、波の表情さえ変わるという。

その光が溶けた海中では一斉に産卵が行われる珊瑚や誕生する地上の命。


そういえば、美緒と莉緒が産まれたのも満月の夜だっけ。
まだ子供の頃のそんなことを思い出した。


太陽の光を欲するほどに明るく輝く丸い月。

そこから伸びる光の帯は、見えない生命の道しるべのようにも見える。
それはどんな動物にも平等で、私たちは結局きっと、同じところから発したのだ。


もしも地上がいつもここのようなら、もっと数多の生命が生まれてたんだろうか。

ずっと彼を照らし続けている、もう一つの月を見上げながらそんなことを考えていた。


「供牙様……?」


私に背中を向けて座している、その姿を見付けて嬉しく思った。
同時に今日は千客万来だなあ、なんて。

その中でも供牙様に会いたいと思っても、ここは気軽に来れる所じゃなし。


「真弥です。 以前はご挨拶もせず」


言いかけて、彼の薄灰色の着物の肩が微動だにしないのを不思議に思い、そろっと彼の前に回ってみた。


───────寝てる……?


緩く閉じられた口許と、寛いだ様子に伏せた瞼。

ていうか、寝るんだ。


「まつ毛長いなあ」


羨ましい。
一ミリ分けてくれないかな。

銀色に不揃いな、細いそれらが目の縁で糸みたいな影を落としている。
高い鼻梁に沿って配置されたパーツの一つひとつが繊細で美しく、思わずため息が出てしまう。

かがみ込んで美術品でも鑑賞してる気分で見入ってると、薄っすらと開けられた金の瞳が静かに私を見返してきた。




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