ぼんやりお姉さんと狼少年
第37章 Plan - Do
むしろ琥牙の方がおかしいよ。
帰ってきて落ち着いたと思ってたら、今晩は感情の起伏が目まぐるしいったら。
「供牙様も二次性徴やらの時は不安定でした?」
愚痴交じりにぼんやりとそんなことを供牙様に訊いてみた。
「なんだ? 藪から棒に」
「……琥牙が丁度そんな時期らしいです」
「ああ、そういえばそうだな。 昔のこと過ぎてうろ覚えだが……私はあれよりも獣性が強かったから、しょっ中飼い主を困らせたり、まだ幼かった加世を泣かせたと記憶しているが」
目線を斜め上の空に移してから、薄っすらと微笑んで教えてくれる。
供牙様にもそんな頃があったとは意外だった。
それから彼は穏やかに、先の私の言葉を拾った。
「不安定、それはそうだろう。 琥牙はその出自から元々内省的な所がある。 それに何より真弥。 お前がいるから」
「─────彼にとって、私は良くない存在なのでしょうか……」
いくら先ほど威勢よく啖呵を切った私でも、もしも供牙様にそう思われてるのなら、かなりショックだと思った。
おそらく彼らの世界のことを最もよく知るこの人に。
「良い悪いでは無い。 お互いにとって不可欠なだけだ。 伴侶とはそういうものだろう? その中で何を選びとるかをおのおの考えれば良い」
それに反し、思ったよりも力強い彼の返答に、別の意味で驚いてしまった。
「そこを違えると惑う。 どんな時も最大の敵は自らの迷いだ。 順番を間違えるな」
私は間違ってないんだけど。
で、そんな彼をあんまり責めるつもりもないんだけど。
にんげんだもの。
厳密にいえば違うか。 そんな下らないツッコミは脇に避けつつ、供牙様の胸に頬をつけて甘えた。
「でも、狼の社会って血筋とか色々、面倒なものですね」
「そうか? 私から見ると人の世界の方が複雑奇怪に思えるがな」