ぼんやりお姉さんと狼少年
第37章 Plan - Do
久しぶりに聞く彼自身の声が心地好い。 そう思った。
水面の波紋のように、粛然と落ちては響く。
それをもっと聞いていたいとでもいうように、私は脈絡のないお喋りを続けた。
「大体、今どき長兄制度とか、家族より群れを重んじろとかそういう考えなんて、人間の社会ではとっくに淘汰されてるのに」
「淘汰されないのには理由がある。 それらが廃れたお前の社会はみな幸せなのか?」
「……そうでも、ないです」
私は特に懐古主義なわけでもリアリズムなわけでもない。
得るものもある一方、失ったものもきっとある。
毎朝電車や会社の中で、息苦しく思っているのは私だけじゃない。
しかもこんなに便利になっても仕事がちっとも減らないってどういうことなの。
供牙様がそれには言及せずに言葉を続けた。
「長兄制度は我らのその資質に寄るだろう。 血筋もさるもの、そもそも最も霊力が高いとされるのが長兄だからな」
「霊力……」
長兄。 ハーフの人狼、血統もだろうか。 それらに含まれた琥牙の高い霊力が、あの鋭敏な感覚や身体能力にも繋がるということだろうか。
「人狼の力の源であり、この月の光に左右される。 私が今補っているのも使い過ぎた霊力を」
「あっ! 卓さん」
話の最中で、彼のことを明後日の方向から唐突に思い出した。
「……なんだ、いきなり大声を出すな。 卓……? 私が体を借りていたあの男か?」
供牙様が居なくなってからパワーアップしたというあの人のことを。
供牙様の使いすぎた霊力、その行方はもしかして?
「実はあの人が、里でよからぬ事をしてるという噂があるんです」
「ほう? 私は本体の方には全く介入はしていないから、あの男の本性までは分からぬが」
「供牙様の影響で強くなった、とか? そんなことってあります?」
琥牙が牙汪を取り込んだように。