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ぼんやりお姉さんと狼少年
第38章 不倫、バトル、なんで恋? 前編
「そ? 暇だね。 でも言っとくけど、被害者こっちだから。 いちお毎回録音してるし」
被害者?
スーツの内ポケットからプラプラと自分のスマホを見せてきて、そこに並んでいる事の日付と通話記録。
んーと。 課長は彼の上司だから、もろもろまとめて。
「ハラスメントってこと?」
「ん。 でも面倒だからいいかなってね。 世帯持ちの上司に突っ込むのは嫌だけど、こういうのまだ男の方が不利だし。 今んとこここ辞めたくないから」
そりゃ職場の上司じゃ面倒臭いだろう。
うちの会社って、案外レベル低いのね。
一瞬同情しそうになったけど、彼と同じに普段どおりの顔を保ってみる。
下僕っぼく見えても、この人本当はプライドが高いと思う。
「こないだ言ってた気持ちがなくても出来るって、こういう意味?」
「違うね。 だってオレ、出すどころか勃っても無いし。 それでもオレらが物理的に出来るのは、桜井さんも知ってるでしょ? テキトーに腰振って誤魔化してるだけ。 あの人、よく開発されてるみたいで普段はしつこくなくってそれだけは助かる」
彼らって、普段からそこそこ硬いのよね。
なんだか逆に不憫な。
種馬にさえなってないじゃないの。
サービス残業的なものかしら、と私は首を傾げた。
「ご苦労さまなのね?」
「ははっ、発情してたら逆に痛いっしょ。 軽い筋トレだと思えばいーよ」
「どうしても人相手にはその気になんないもの?」
「んー、珍しくも無いと思うけどね。 確かに生まれが人だったら人にいきやすいってのはあるけど、オレは早くに二次性徴して獣化したし。 琥牙さんの父親だって、雪牙くんの母親は雌狼でしょ?」
早いうちに狼の姿になったのなら、自分と同じ姿形の異性を性の対象としても見るようになるというのは自然なことかもしれない。
これまで二ノ宮くんを異常性癖扱いしてた自分が少し短絡的に思えた。
確か、狼から人に変わるパターンもあると伯斗さんからも聞いている。
同じにみえても彼らには彼らの、個々の事情があるのかもしれない。
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