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ぼんやりお姉さんと狼少年

第39章 不倫、バトル、なんで恋? 後編



「………朱璃様がそれ言いますか」


二ノ宮くんがぶんと尻尾を一振りして立ち上がり、怪我が痛むのか顔をしかめる。


「八ハハッ! 我より弱い獣など、元より生きる価値は無い!!」


「確かに、ね」


朱璃様に笑い飛ばされ、とうとうしっかりと体勢を立て直すと、彼は初撃のダメージを受けている一方に飛びかかっていった。
続いて、私の目の前の弟も。


「あっ、浩二!」


傷付いた二匹、いや正しくは、一人と一匹が飛び出して行ったのは無理からぬことかもしれない。

強さを信条とする、それは彼らの誇りや比護欲といったものを堪らなく刺激するに違いない。
小さな人間の女性……それが、自らと同じかそれ以上の大きさの獣と戦っているのだから。


きっと長い時間の、気の遠くなるような努力を重ねて、朱璃様は自らの戦い方を手に入れたのだ。

種族や体格、性別を超えて。

卓さんみたいな人ではなくとも、なぜ彼女がその身で長年あの里を護れてこれたのか───────……私はそれを目の当たりにした気分だった。




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