ぼんやりお姉さんと狼少年
第39章 不倫、バトル、なんで恋? 後編
ついと朱璃様に手を取られた浩二だったが、血が滲んだ自分の腕ではなく、その視線は傷を見る彼女にじっと注がれている。
「平気だ。 表面掠っただけで」
「衣服を分厚く巻いていたのが幸いだったな。 如何にも接近戦を好む男らしいが、いくらその体でも野生の獣には適わんぞ? 得物の使い方も覚えておけ」
総合格闘技をしている浩二も槍などは出来ないことはないはずだ。 今日は準備が無かっただけで。
だが普段から負けず嫌いな彼から、そんな言葉が口に出ることも無かった。
「つか、コロボックル。 お前も真弥とどういった」
「朱璃様。 この者は真弥どのと近い血筋です」
浩二を遮り、伯斗さんがヒクヒクと鼻を動かして朱璃様に説明する。
その言葉を聞き、彼女が浩二を見上げてにこりと微笑んだ。
「そうか。 では……弟君かな? 会えて嬉しいぞ。 許されるのなら真弥の肉親に挨拶をしたかった。 しかし、お前。 諸々と動じん男だな? あの保と伯斗を見ても何とも思わんとは」
「………朱璃」
彼女の言葉が聞こえているのかいないのか。
熱に浮かされたようにぼんやりとその名前を反芻していた。
「─────いてて……桜井さん。 ちょっと、あれって」
「これは今日一番の予想外だわ………」
二ノ宮くんと私は固唾を呑んでそんな二人の様子を見ていた。
この寒空の闇夜に、浩二の周りには暖かな陽だまりに咲く色とりどりの花が乱舞している──────……ように見える。
おそらくだが、私の知る限り浩二は今まで、自ら女性を好きになった経験がない。
「あーでも、朱璃様って下手したら20代にもよゆーで見えるもんね……」
言うなれば美魔少女というか。