ぼんやりお姉さんと狼少年
第40章 里の特産月の石
また背すじを伸ばした朱璃様が、若干気遣わしげに二ノ宮くんに目を向け、出入口の戸がカラカラと開いた音が聞こえた。
「しかし保。 お前には酷なことを伝えなければならん」
「…………?」
「朱璃様。 一匹連れてきました。 目を覚ましておりましたので」
仕切りから姿を表した伯斗さんがズルズルと咥えて引っ張ってきたのは先ほどの狼。
寒空の中あのまま放っておく訳にもいかなかったので、浩二が車のトランクに放り込み、ここに移動したのだった。
伯斗さんに抵抗出来ない位にはまだ体が思うように動かない様子だったが、荒い呼吸の合間に「離せっ…! このジジイ」などと憎まれ口を叩いている。
そんな彼を引き立てて、伯斗さんが狼の傍の出入口に座り監視役を買ってでる。
「おい、若造。 此度のお前の目的は?」
「知らねえよ」
朱璃様の問いに投げやりな反応を返す。
里にいた慇懃な人々とはえらい違いだ。
「里を出る際に聞いた者がいる。 琥牙の伴侶、真弥を拐うと言っていたそうだな?」
ん、私?
浩二がぴくっとその言葉に反応して狼の方に近付いた。
しこたまガシガシと浩二に蹴られてたのはこちらの方の狼だっただろうか。 彼を見た途端にヒッと声を上げて姿勢を低くする。
「……オレはそっちに倣っただけだろ。 そっちだって、オレの家族を人質に持ってるだろ!?」
これだけの面子を目の前にしても反抗的な素振りを隠さない。
この気丈さと度胸の良さは種族的なものだろうか。