ぼんやりお姉さんと狼少年
第40章 里の特産月の石
「お前の居る、危険な地に家族を寄越すのか? それでお前とお前の妻子は安穏と暮らせるのかな」
「……っなにもオレじゃなくたって、いいだろっ? 他の奴を探せば」
「それこそ里には女子供、年寄りしか居ない。 里に近付けさせる訳にはいかんのだよ。 それは何処の群れだろうと同じだろう」
「っんなの! 卓さんがリーダーなったら、オレらを守ってくれるって約束したんだよ! 里ん中で一緒に住めるって」
「その卓が真弥を拐えと命じたのか」
うっかり、という感じで口走ったあとにふいと視線を逸らし、狼は決まりが悪そうに再び沈黙した。
それで朱璃様。 この者がこれを。
立ち上がった伯斗さんが口から吐いて床に置いたのは、首紐らしきものにつけられたあの石の欠片だった。
私が以前伯斗さんからいただいたのはもっと七色の丸いもの。
立ち上がって手にしてみると、それはいびつな形ではあったが薄緑がかってぼんやりと光を放っているように見えた。
「返せよ! 仲間の証だって、貰ったんだ」
「ほぼ原石に近いものだな。 これを身に付けているものが、そっち側の者だという目印なのかなあ……どこぞの宗教でもあるまいし」
呆れたように言う朱璃様。
高価ではあるが、里ではこの出自を恐れてあまり売買には使われないと聞いている。
「いえ、少し違うと思います」
「真弥?」
不思議そうに私を呼ぶ浩二の隣に座り、狼の方へと手を伸ばした。