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ぼんやりお姉さんと狼少年

第43章 私たちの牙 後編



「怖かったくせに……これ、母さんに殴られたんだよ、おれ。 真弥を手離すって言ったの、誰かにチクられてさ」


先ほど卓さんにやられたのとは、別の頬。
顔の右側を指差して、琥牙が細く息をつく。


「朱璃様に?」


この面子の中で伯斗さんが視線を逸らしたのを私は見逃さなかった。


「真弥と過ごす私の老後の楽しみを奪うなとか、もう無茶苦茶で」

「っなに、ソレ」


いかにも彼女の言いそうなことだ。
老後って歳でもないのに。

思わずぷ、って吹き出してしまった私を見て、琥牙がほっとしたような顔をした。


「あと、もう少し真弥のこと信用してやれってさ」

「…………」

「そう受け取っちゃうよね。 真弥にはいつもありがとうって、本当はその方が大きいのに。 ごめんね、真弥が大事過ぎて」



ぽろっ、と目から一筋だけ涙がこぼれた。


そうだ。

一貫してなんで私が傷付いてたのかというと、結局はそこだったのだと気付いた。

私は彼にとって役に立たないのだと。
ただの負担に過ぎないのだと、そう思わされるのが堪らなく嫌だった。

そんな私の気持ちを知ってか、ごめん。 と琥牙が何度も繰り返す。



「それ顔、跡残んないように早く治療しなきゃ」

「え? いいよ、これ位」


特に痛みもない。
麻痺してるだけかもしれないけど。


「そういうのって、あとから腫れてくんぜ」

「はあ……俺にも一発殴らして欲しかったねソイツ」


雪牙くんと浩二がそう言って、琥牙が振り返り、視線の先の狼たちがその瞬間真っ直ぐに、分かりやすく硬直した。


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