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双龍の嫁

第2章 風龍


探るように重ねられる唇が向きを変えます。

わたしはその感触と、伏せられたまつ毛に囲われた水平に近い曲線に見とれました。


「………ン…」


それが僅かに深くなり、その前に呼吸をするために夫の胸を押しました。

薄く開かれた目がわたしを捉え、彼の胸に当てている力のこもったわたしの指先に視線を移します。


「………ぷ…はっ!」


その隙に顔を逸らし、大きく息をつきました。

……おそらく龍というものは、長く息をせずとも構わないものなのでしょう。


「はっ…すみ、ませ………はあっ」


「……お前とこういう口付けを交わしたのは、初めてだったと私は今更気付いた。 だが、水龍とは?」


夫は彼の膝の上で息を整えるわたしを怪訝そうに見ています。


「水龍、ですか? ……口付け…というより、彼とでは、わたしの顔が食べられてしまうと思います」


水の龍の、鯉か鯰のような、ぱっくりと開いた口を思い起こしながらわたしは言いました。


「────────」


あれは人の頭が入りそうな大きさだからです。

しばらくののち、夫はふはっ、と肩を揺らし口に手を当てて、くぐもった笑いを漏らしました。


「あの姿でか? あれとよく、交合う気になったものだ」


そうやって体を震わせてくくと笑う龍に、わたしはどこかかちんと怒りを覚えました。


「それはどういう意味ですか? 水龍はとても優しくて、強い方です。 少しばかり、臆病かもしれませんけど」


つい険のある物言いをしてしまい、それに気付いた夫は「そういう意味ではない」
ひと言言って、その神秘的な面立ちからすうっと笑いを収めました。


「それに水龍は臆病ではない。 あれは私たち龍の中でも長兄のような存在だから」

「兄……? 同じ龍ですのに?」

「この地では水はすべからく全ての源でもある。 私が生まれたのは三番目、火龍の次にあたる。 そもそも、私が花嫁を共有するのを許したのは、相手が水龍だったからだ」


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