双龍の嫁
第3章 茶話会
美青年。 そういった言葉がぴったりの面立ちの、その男性の直線的な顎にはらりと細い前髪を揺らしてわたしの傍に立った時、「まあ」と、三度呟いた潤香がポロリと手元の焼き菓子を落としかけましたが、それでも素早く腕を伸ばしてそれを平皿で受け止めたのには感心しました。
「……水龍、ですか?」
「ああ。 日が暮れると危ないからね。 本当は風龍が来るはずだったんだが、彼はあのとおり暑がりだから私が呼ばれたのさ。 まだお楽しみだったかい?」
「わざわざ、ありがとうございます」
夫たちの気づかいに、わたしの胸にじんわりと嬉しさが込み上げました。
「沙耶。 風の加護のおかげでますます美しくなった。 けれど、よくすぐに私だと分かったね?」
「貴方のまとう空気が同じですもの」
「地上では、あの姿じゃ歩けないからね」
彼の水かきや背中にヒレのついた姿を思い出し、わたしたちはふふと微笑み合いました。
龍のしるしはその心をあらわすそうです。
ともすればその居所や心地はさておいて、水の龍は久しぶりにわたしに会ったことで、少なくとも気を悪くしているわけではないのでしょう。
夫が自分たちを見ている周囲に気付き、柔和な表情で彼女たちに話しかけました。
「さて花嫁がた。 もうそろそろ貴女たちにも、他の龍が迎えに来るのではないかな?」
「あらまあ、もうこんな時間」
茜が差す空を見上げのんびりと潤香が呟くと同時に、突然卓に両手を着いた璃胡が勢いよく立ち上がりました。
「────わっ…わたくし!」
世にいう奇跡的な間の悪さとは、こういう時のことなのかとわたしは思いました。
「わたくし、夫の交換を所望しますわ……!!」
その熱を帯びたような決意の言葉は、彼女の背後から二間も離れた所に現れた……火のように赤い髪の男性にも届いたに違いありません。