双龍の嫁
第3章 茶話会
わっと束のように吐き出された言葉に、潤香は口元の手のひらを離してわたしと目を合わせました。
「……それは、つまり…どういうこと?」
息をつまらせながら璃胡は潤香に促された先を口にします。
「……もう、何年も前になるわ。 家の用事で外へ出て……帰りが遅くなったある日、わたくしはならず者に…無理矢理………処女を散らされたの……そのあとも、何度か待ち伏せをされて。 わたくしの両親は事情を知って、こんな娘はまともな所へは嫁げないと……体よく厄介払いをしたのよ」
最後は消え入るように彼女は言いました。
「だっ…だから。 わたくしには、本当は火龍の妻になる資格は、なかった……の」
花嫁となるものは清い体でなければならない。 わたしの村には、かならずしもそんな不文律があるわけではありません。
それでもうら若い娘が嫁ぐときには、当然そうであるだろうという、女性の貞淑を信じる周囲の思惑は存在しておりました。
「……それで、もう互いに婚姻関係を持っている今になって、夫の交換などと言い出したの?」
「そ…そしたら、わたしのそんな事情なんて、どうでもよくなるんじゃないか、って。 火龍にも……こ、子供みたいな見た目のわたくしなんかより、沙耶お姉さまのほうがずっとふさわしい……ぐすっ、ひっ…」
泣きじゃくりはじめた璃胡に、どう言葉をかけようか。そう思いもう一度潤香を見ると、彼女の顔にもなんとも言えない同情の表情が浮かんでいました。
「璃胡さん……」
同じ女性として、力づくで貞操を奪われた、未だに心の傷が癒えない彼女の気持ちはわたしにも理解出来ます。
それにわたしに両親はもういませんが、彼女の両親のような薄情な家族ならばそんなものは要りません。