双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
閉じた引き戸に背中をつけると冷たい風が頬を撫でました。
空を見上げると今晩は晴れて、星の降りそうな夜でした。
「風の。 お前は沙耶の身の上のことをなにも知らないのか?」
「ん? なんのことだ?」
「全く……我らの守地でもあるというのにお前は無関心も過ぎる」
小屋の中からそんな二人の声が聞こえ、わたしはそろそろとその場を離れました。
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わたしは十の歳になるまで、一人で暮らしておりました。
両親は亡くなったとはいっても、始めから父親は居ませんでした。
位のある方だけとは聞いていましたが、わたしの母方の両親である祖父母は二人の結婚を許さず、駆け落ち同然に一緒になったそうです。
─────ですがわたしが生まれてすぐに父親の方は実家に連れ戻され、残った母は間もなく病で息を引き取りました。
『きっとあの人は迎えに来てくれるはずだから』
そう言い遺して。
それからの間、わたしは母の遺志を継ぎ、畑仕事や他の家の子守りなど、村の親切な方々のお世話になりながら父を待っておりました。
数年も経った頃、わたしの存在を知った祖父母がわたしを引き取ってくれました。
それでもその家を離れようとしなかったわたしに、父親はすでに実家で他の家庭を作っており、ここへ戻ってくることはないことを告げました。