双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
水の冷たさと相まって、温い水粒が目の下を伝ってからぽたぽたと水面に落ちていきます。
それを不思議に思っていると段々水の温度が熱くなって、喉元からも熱が込み上げてきました。
それが涙であると認識するまで時間が掛かったのは、普段の生活でそれに慣れていなかったからでしょう。
ただ胸にあるのは、生を受けてから初めて感じる受けきれない程の幸福感です。
心の中に住まうわたしの夫たち。
わたしの身を案じてくれるのが彼ら、愛する人であること。
こうして傍にいて共に過ごせること。
そして彼らと出会い、またそれが新たな出会いを繋いでいくこと。
なにに対してかは分かりませんが、自分に去来したそんな幸運に、わたしは心から感謝せずにはいられませんでした。
「お母さま───────……」
顔を伏せたまま、嗚咽のように洩れ出した音の隙間からわたしは呟きました。
十の時に父を信じて待ち続けた母の死に顔は、穏やかなものでした。
身を切るような寒さの中で床で震えた夜。
訪れた春の花々に目を細めて、いつか迎え来てくれるであろう待ち人を思い浮かべながら窓の外を眺めていた昼下がり。
───────わたしにとって思い浮かべていた父とは、まさに夫たちのような存在でした。
月日を経て、やっとわたしの元に彼らが現れてくれたのです。
ようやく母の想いが成就したのだと、わたしはそんな気持ちにもなり、今しばらく溢れ出てくる歓びに浸ることを自分に赦しました。