双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
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小屋から明かりが洩れる所まで戻ると、二人が話している声が聞こえてきました。
それで引き戸に手を伸ばしたものの、「龍同士、積もる話がある」そう聞いていたことを思い出し手を止めました。
「………そういえば、お前は人一倍父性が強いのだったな」
中から水龍の声が聞こえました。
……風龍が父性?
親子と龍がなんの関係があるのだろう。その内容にわたしは首を傾げます。
「子は親を選べぬからな」
「そう自分を責める必要は無い。 昔のことだ」
「いや……思えば私は、沙耶に対して不躾な態度を取っていたなと後悔している所だ」
盗み聞きをするつもりはありませんでしたが、自分の名前を呼ばれどきりとして、わたしは立ちすくみました。
「そうなのかい? 沙耶、あれが私の元に初めて来た時、顔色もわるく手も荒れて……健康な娘とは言い難かった。 実家ではあまり大切に扱われていなかったのだろう。 それが今日会って、本来の彼女の美しさを取り戻しつつある。 お前のおかげだと感謝しているよ」
「それは単にあれの体質のせいだ……なんにしろ水龍、今日は助かった。 沙耶を返すのは明日だというのに、無理を言って済まなかったな」
「風の。 きみがそんな殊勝なことを言うのは珍しいね。 嫌味ではなく」
「褒め言葉には聞こえないが……まあいい。 沙耶……あれはいい意味でも悪い意味でも、周りの気を取り込むことに長けている。 無意識のうちに、余分に自らを削ってしまう類いの女だろう。 育ちのせいかもしれないが」
「そうだな。 でも、それもきみらしくない。 なぜ急にそんな話を?」
「彼女の、本来の性質とかけ離れているからだ。 風の加護の女はそうあるべきではない」
「それはきみが決めることではないよ。 自由であるべきという信条に捕らわれるのは、全くもって皮肉な話だね」