双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
「……私は貴殿と言葉遊びをしたい訳では無いのだが?」
「と、言われてもね。 沙耶が可愛いのはよく分かってるよ。 私のあの姿をみても彼女は動じなかった。 それどころか情を返してくれた沙耶が私は愛おしいし、彼女が妻であることがとても嬉しい。 いくらことわりとはいえ、そこに彼女の意思が無いなどと、私は思っていないがね」
「そう思いたくない、の間違いではないのか?」
その話の内容は完全には分かりませんが、わたしのことを話している二人の間に、なにやら不遜なやり取りが混ざり始めているのを感じました。
水龍がその声音を変えず静かに言います。
「……きみの以前の花嫁。 少しばかり癇癪もちだったとはいえ、彼女もきみのことを愛していたよ」
「そんな話は、今……」
口調からして苛々しているのは風龍の方です。
わたしのことで?
それとも、前の奥さんのことで、でしょうか。
「そもそも、気質が異なり過ぎる我ら四龍が真に分かり合うことは無いだろう。 そしてそうする必要もない」
少し長い沈黙ののち、風龍も同意しました。
「────そうかも知れんな」
分かり合えない───────……
こんなに仲のよさげな彼らなのに、なぜでしょう。
わたしの意思が無いなどとは。 そう水龍は言っていました。
わたしが自分の気持ちを、ちゃんと彼らに伝えたこと─────思いめぐらしてみれば、そんな機会は今まで無かったような気がします。
そう思うといても立ってもいられず、わたしは引き戸の戸を開けました。
「………あっ、あの!」
「─────沙耶?」
驚いた様子の二人が動きを止めてわたしを見ました。