双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
「……すみません。 外からお二人の話が聞こえて」
「ただの世間話だよ。 お前が気にすることじゃない」
「いえ、そうではなく、わたしは大切なことを言い忘れてて」
顔を見合せた二人が不思議そうな目を向けてきて、生まれてはじめての告白にわたしは緊張に唾を呑みました。
「大切って、なんのことだ」
『偽っていると、きちんと向き合えない』
それはわたしが今日学んだことです。
こうして三人でいる時に、きちんと伝えるべきだとわたしは思ったのです。
「わたしは水龍、風龍。 わたしの夫を愛しています。 これはわたし自身の、想い、です。 誰も何も……加護も龍も育ちも、ありません」
急いで頭のなかで組み立てるのに目を閉じ、途切れ途切れに言いました。
けれど我ながら、つたない告白だと思いました。
この両手に溢れるほどの歓び。 先ほどのわたしの想いが、どう言葉を尽くせば相手に伝わるのか分かりませんでした。
しばらくしんとした沈黙が部屋をつつみ、俯いた風龍と対照的に水龍がわたしに手を伸ばしました。
「────優しい娘だね。 おいで、沙耶」
彼の元へ近付きそこにわたしの手を乗せると、彼は座ったままわたしの胴に腕を回し、膝の間に入れてゆるく抱きしめてくれました。
「沙耶。 相容れないというのは悪いことではない。 少なくとも私たち二人はそれを悪くとらえてはいない。 それは異なる視点からお前を護り愛せるということだ」
少なくとも彼らは仲違いをしていたわけではなさそうでした。
『愛せる』────────
そういえば、先ほどもわたしを『愛おしい』『妻でよかった』と。
そんな甘い言葉がふわふわとわたしに絡みつき、自分を抱いてこちらを見下ろしている水龍の蒼く美しい瞳とはたと視線が合って、なにやら気恥ずかしくなりました。
「そ、うなの…ですか……?」
同時に、自分の告白にきちんと想いを返してくれた。 そんな彼の誠実さにあらためて胸を打たれました。