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冬のニオイ

第19章 negai

【潤side】

さっきまでの仕返しとばかりに、俺は黙って話を聞く。
あの日、元気のない様子で一人ポツンと座っていた智を思い出した。

結局この人はやっぱり、櫻井さんと智が再会することを望んでいるということなんだろう。

「櫻井と大野は、昔、自分たちが恋人関係にあることを誰にも秘密にしていたんです。
けれども勘づいた人間も居て。
まぁ、僕もその一人ですが、あの二人は仲が良かったですからねぇ。
……本人たちが隠していたから気づかないふりをしていましたが、もしかして、そういうことなのかな、と思いながら見守ってた仲間も結構いたんじゃないかなぁ。
ですけど……あいつらが同性同士で本気で好きあっていることを知って、良く思わなかった人も居たんですね。
全部は僕も知らないし、本人たちが言わないものを僕からは言えませんが、まぁ、口にしたくないような嫌なことがいろいろとあって。
恐らくあの二人は、それが原因で別れたのだと思います」

岡田氏はハッキリ言わずにぼやかして伝えてきたけれども、大体どんなことがあったのか口振りから俺にも想像がついた。
さぞかし嫌な思いをしたことだろう。
そういうやつは、どこにでも必ずいるんだ。

俺らは別に他の人に迷惑もかけていないし、世間に対して理解を求めたり、権利を主張するとか、そういうアピールをしているわけでもない。
ただ社会の片隅で、ひっそりと相手を想っているだけなのに。

「そう、ですか」

追い詰められて別れを選択したのであろう二人のことを想うと流石に可哀想で、思わず岡田氏の話に相槌を入れてしまう。

「それからずっと10年以上音信不通で、大野とは会っていなかったと聞いています。
だから、あの二人は既に一旦、別れることを選択したってことですね」

「……?……」

「出席者名簿には僕と櫻井の名前があったんですから、もし大野がそうしようと思えば、パーティーの後で櫻井を探すことも出来た筈です。
でも、あいつからの連絡はありませんでした。
実際にはパーティーの翌日に櫻井は事故に遭ってしまったので、仮に大野が櫻井に会おうとしたとしても叶わなかったわけですけど……」

そうか、確かにそうだ、と話を聞いて思った。


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