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冬のニオイ

第19章 negai

【潤side】

パーティーの翌日は俺と一緒にいたから無理だったとしても、智が本当に櫻井さんに会いたいと思えば、会いに行くことは出来たんだ。

事故の件が耳に入らなければ、智は櫻井さんに接触しようとはしなかった?

じゃぁ、終わってる、ってことなんだろうか。
智の中では櫻井さんのことはもう過去のことになってるのか?
だったら俺が諦める必要はない。

ああ、でも、人の気持ちの在り様なんて、所詮、他人には分からない。
あの夜、コンビニの駐車場で、智は自分が泣いてることにも気づいてなかった。
それに、熱を出して何度も名前を呼んでいた。

恐らく、大事な人なんだ。
大事過ぎて会うのを断念する程の、大切な人なのかも。

そう思うと辛い。
出会った順番が遅かっただけで、俺だってあの人を真剣に想ってるのに。

沈んでゆく俺の気持ちには構わず、岡田氏の話が続く。
人に教えるのが仕事というだけあって、話し始めると饒舌だった。
落ち着いた声が聴きやすい。

「知った風なことを言うようですが、よく死に別れは美しいけれど、生き別れは汚い、と言ったりするでしょう?
勝手な想像ですが、大野が連絡を寄越さなかったということは、櫻井との間にシコリになっているような想いもあるのかもしれない、と僕は思いました。
男女の間であっても、別れた二人であれば、いろいろな気持ちが残るのが普通ですよね。
まして同性同士なら、本来、味方になってくれるのはお互いしかいないわけです。
そこを別れたということはキレイ事ではなかったろうと思っています」

「そうですね……よく、わかります……」

岡田氏に気取られないように、そっと溜息を吐き出す。
子供の恋愛ごっこじゃないんだ。
真剣だったなら尚更、お互いに傷つけあうようなこともあっただろう。

「本来ならば僕などが介入するのも憚られますが……ただ今回は、櫻井の命がかかっているので」

「……はい」

「何故意識が戻らないのか、理由がわからないと医師は言っていました。
もしも最悪の事態になったら、大野はシコリになっていることや、櫻井との行き違いで生じたモヤモヤを解消する機会を失ってしまいます。
ずっと過去に囚われたままになる。
友人として出来る限りのことはしたいと僕も思っていますが、二人のことに口出しするつもりはありません。
すべきではない、と自分に言い聞かせています」

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