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冬のニオイ

第23章 サーカス

【潤side】

賭けだった。

最後にもう一度、と言ってみて、智が受け入れてくれるようだったら、まだ俺にも望みはあるんじゃないか、と。
例え報われなくても櫻井さんの意識が戻るまで智を支えて、結末がどうなっても見守っていこう、って。

だけど、聖人君子でもない俺にそんなことが出来るのかと問われたら。
認めたくないけど恐らく無理だろう。

早く目が覚めるといいね、って励ましながら寄り添って、しばらくは恋人同士みたいに過ごせるのかもしれない。
上手に嘘をついてさ。
もしかしたらそのうち、櫻井さんのことを諦めて俺を愛してくれるんじゃないか、なんて期待して。

だけど櫻井さんが目覚めたら俺はどうなる?

今までありがとう、とか智に言われて、これで俺の役目も終わりだね、って笑顔で答えるのか?

そんなのキレイ事だよ。
無理だ。



いつだって自分は間違ってないと思う方向に進んで来たけど、根本のところは俺だってただ愛されたいだけなんだ。
そんなに強い人間じゃない。

それでも。
もし、わずかでも、智が俺を愛してくれる可能性があるなら、傍に居たいと思った。

けれど智の怯えた表情を見たら。
ああ、ダメなんだな、と認めるしかない。

気持ちが大き過ぎて相手の負担になるんだったら、もう終わりにするしかないよな……。



ごめんね、智。
俺が怖いよね?

俺、あなたを思い切らないといけないから、今から酷いことを言うね。

智が俺に対して罪悪感を抱かないように、前もって散々頭の中で考えてきたセリフ。

一晩限りの相手なら顔も名前もすぐ忘れるだろう。
でも、酷い男だった、って呆れてくれたら、少しは記憶の中に残るかもしれない。

俺、あんたのこと本当に好きだったよ。



「智、言ってたでしょ?
忘れたくていろんな奴と寝た、って。
別に好きじゃなくても出来るんだし、今まで散々やってきたんだ。
あと1回増えても同じだと思うよ。
どうせ櫻井さんにはわからないんだ。
俺はそれで諦めるからいいでしょ?
ね?」

ニッと口だけで笑って見せると、智は明らかに困惑した顔で、冗談にしようとするみたいに笑い交じりに言った。

「潤、どうしたの? おかしいよ?」

俺が黙っていると、智の顔から笑みが消えた。


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