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冬のニオイ

第24章 むかえに行くよ

【智side】

翌日のタツオミとの待ち合わせは午後で。
ゆっくり起きて支度していたら、キタムラさんから電話があった。

『大野さん、本日のお約束についてですが……。
ぼっちゃんをお連れするべきかどうか判断がつきかねまして、ご連絡いたしました』

例によって丁寧過ぎる挨拶の後で、キタムラさんに言われた。

「翔くん、どうかしたんですか?」

オイラは思わず翔くん、って言ってしまって。
それを聞きとがめたキタムラさんは、どう思ったのか、そのまま話を続ける。

『翔くん……。
いえ、櫻井さんのことは病院から何も連絡がありませんので、お変わりないかと存じます』

「あ、そ、か……。
すみません、タツオミ君に何かあったんでしょうか」

気まずく訊き直すと、キタムラさんが大きく息を吸い込む気配がして少し間が開く。

『……大野さん、何と申し上げれば良いのか説明が難しいのです。
恐らくあなた様にはご理解いただけると存じますので、有体にお伝えいたします。
今朝目覚めたぼっちゃんは、大野さんと待ち合わせの約束をしたタツオミ様ではありませんでした』

「あ、じゃぁ」

オイラはこの間ウチに来て昼寝の後に泣き出したタツオミを思い出した。
つまり翔くんじゃない、ってことだ。

『ぼっちゃんに何が起きているのか、私にはわかりません。
昨日大野さんとお約束をしたタツオミ様は、自分は大野さんに会えたらこの体からは消えると思う、と私に仰いました。
だから助けて欲しいと頭を下げられたのです。
当家の跡取りの成長を、傍らでお支えするのが私の役目。
タツオミ様のご希望通りに致したく存じますが、お約束通りぼっちゃんをお連れしても、よろしいでしょうか』

「…………」

オイラは黙ったままで小さなタツオミのことを考える。
病院にいる翔くんとタツオミとの繋がりは、実際の所オイラにもわかんなくて。
ただ、翔くんだ、って確信があるだけ。

でも、あの手紙の文字。

翔くんは、二人が最後に会った店で待っている、とオイラに伝えるために出掛けて事故に遭った。
なら、必ず来てくれる。

「僕は約束通りお店に行きます。
もしもタツオミ君が翔くんでなくても構いません。
キタムラさん、よろしくお願いします」

『……やはり大野さんも、あの方は櫻井さんだと思われますか?』

しばらく無言の後にキタムラさんが言った。


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