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冬のニオイ

第25章 愛を歌おう

【翔side】

その言葉を聞いた瞬間に俺はもうボロボロと泣けてきて、感情が言葉にならない。

「うっ、うう~~~」

この10年、貴方のことを想わない日はなかった。
きっと、もう顔も見たくないと思ってるに違いないって、思い込んでたのに。
まさかこんな風に言ってもらえるなんて、想像もしてなかった。

子供の体じゃなかったら、智君を丸ごと腕に抱いて、もう二度と離さないのに。

「うっ、うっ……うう~~っ」

俺はしゃくりあげて泣いてしまって息が苦しい程で、言うべきことが何も言えない。
体を離した智君が、俺の顔を見て泣きながら笑った。

「ふふっ。翔くん、顔、ひどい」

酷い顔にもなるよ。
俺がどんなにこの日を待ち望んでいたか。

「うっ、っく、ううっ……」

智君が返事も出来ない俺の顔を拭いてくれる。
ふふっ、って笑う声が聞こえるけど、智君だって泣いてる。
泣き笑いしながら俺の額にキスをして。
覗き込むようにして目を合わせてくれた。
慈愛に満ちたその表情は、何て綺麗なんだろう。

「さとっ、智君っ……お、俺のことっ……
許してくれるのっ?」

手の甲で涙を拭いながら訊く。

「うん。……翔くんもオイラのこと許してくれる?」

「うんっ。許すよっ、許すっ」

二人で泣きながら、笑って、お互いの涙を拭った。

ああ、神様、ありがとうございます。
智君が許してくれた。
智君が、俺を許してくれました。





落ち着いてから。
智君はコートを脱ぐと、並んで座ってる俺の肩も覆うように背中に被せてくれて。
腕で包むみたいに肩を抱いてくれてた。

すっぽりと包まれているのが気持ち良くて、泣き疲れた体がポカポカ温かい。
こうしてまた自分の右側に貴方の体温を感じられるなんて、夢みたいだった。

甘いものでも飲もうか、ってホットココアを頼んでくれる。

注文する時に、お店の人が遠慮がちに、大丈夫ですか? って訊いてきて。
智君は、久しぶりに会えたので、って。
お騒がせしてすみません、って謝ってた。

俺が小声で、きっと離婚して親権を取られた息子だと思ってるかもね、って言ったら、ツボだったみたいでアハハ! って声を出して笑ってる。

「智くん、オレがオレだって、すぐわかったの?」

ココアが来るのを待ちながら頭が段々ぼんやりしてきて。
眠ったら駄目だ、と思って話を続けた。


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