冬のニオイ
第25章 愛を歌おう
【智side】
別れ際。
キタムラさんは、また櫻井さんとお話しできるようなら、すぐに連絡します、と言ってくれた。
仕事中でも構わないから是非、とお願いして、オイラは頭を下げた。
送ってくれるというのを断って、翔くんの病院へ向かう。
いろんな事がどうなってるのか、やっぱりオイラには不明だけど、多分、頭で考えても答えが出ないことのような気がして。
泣いてる場合じゃない、ってだけ自分に言い聞かせる。
今度はオイラが君を探す番なのかもしれない。
ナースセンターに声がけをして面会謝絶の表示がある病室に入ると、大人の翔くんが相変わらず静かな顔で眠ってた。
枕もとに並んだ機械から、規則的な電子音がしてる。
翔くんが生きてる、って証拠。
だけど。
「翔くん……」
呼びかけてみても返事はない。
さっきまで腕の中に抱いていた子供とは、生命の存在感みたいなものが全然違う。
子供が放つ全開で生きてる感じと、目の前に横たわる綺麗で静かな翔くんとでは、あまりにも違ってて。
やっぱり、翔くんはこの体にはいないんだな、って、理屈じゃなくて感覚でわかる。
頬に触れると温かいし、唇も血色が良くて、今にも目を開けそうなのに……。
点滴が入ってない方の腕を取って、翔くんの手をそっと握った。
「翔くん、オイラ待ってるからね。
帰って来るよね……」
言って、手の甲にキスをした。
昔、この手がオイラをいつも支えてくれてた。
勉強を教えてくれてた時に、オイラが問題を解く間、ペンをくるくると回していた指。
問題の意味がそもそもわかんなくて、オイラがそろーっと翔くんを盗み見ると、いつも必ず目が合った。
君は面白がってるみたいに笑ってて……。
ここ? って、オイラがわかんなくて詰まってるところを指さすんだ。
そうして、その問題が何を訊いているのかを丁寧に教えてくれた。
そもそも問題を読み解く力がないと、答えがわかってても書けないんだよ、って。
『智君は答えをちゃんとわかってるんだ。
ただ、問題が意地悪だから引っかかっちゃうだけ。
慣れてくれば問題文なんか全部読まなくてもピンと来るようになるよ。
ダンスの練習と同じ。
何度も繰り返して解くうちに癖がわかってくる』
懐かしい会話が思い出されてくる。
別れ際。
キタムラさんは、また櫻井さんとお話しできるようなら、すぐに連絡します、と言ってくれた。
仕事中でも構わないから是非、とお願いして、オイラは頭を下げた。
送ってくれるというのを断って、翔くんの病院へ向かう。
いろんな事がどうなってるのか、やっぱりオイラには不明だけど、多分、頭で考えても答えが出ないことのような気がして。
泣いてる場合じゃない、ってだけ自分に言い聞かせる。
今度はオイラが君を探す番なのかもしれない。
ナースセンターに声がけをして面会謝絶の表示がある病室に入ると、大人の翔くんが相変わらず静かな顔で眠ってた。
枕もとに並んだ機械から、規則的な電子音がしてる。
翔くんが生きてる、って証拠。
だけど。
「翔くん……」
呼びかけてみても返事はない。
さっきまで腕の中に抱いていた子供とは、生命の存在感みたいなものが全然違う。
子供が放つ全開で生きてる感じと、目の前に横たわる綺麗で静かな翔くんとでは、あまりにも違ってて。
やっぱり、翔くんはこの体にはいないんだな、って、理屈じゃなくて感覚でわかる。
頬に触れると温かいし、唇も血色が良くて、今にも目を開けそうなのに……。
点滴が入ってない方の腕を取って、翔くんの手をそっと握った。
「翔くん、オイラ待ってるからね。
帰って来るよね……」
言って、手の甲にキスをした。
昔、この手がオイラをいつも支えてくれてた。
勉強を教えてくれてた時に、オイラが問題を解く間、ペンをくるくると回していた指。
問題の意味がそもそもわかんなくて、オイラがそろーっと翔くんを盗み見ると、いつも必ず目が合った。
君は面白がってるみたいに笑ってて……。
ここ? って、オイラがわかんなくて詰まってるところを指さすんだ。
そうして、その問題が何を訊いているのかを丁寧に教えてくれた。
そもそも問題を読み解く力がないと、答えがわかってても書けないんだよ、って。
『智君は答えをちゃんとわかってるんだ。
ただ、問題が意地悪だから引っかかっちゃうだけ。
慣れてくれば問題文なんか全部読まなくてもピンと来るようになるよ。
ダンスの練習と同じ。
何度も繰り返して解くうちに癖がわかってくる』
懐かしい会話が思い出されてくる。