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冬のニオイ

第27章 Asterisk

【智side】

それは、とても小さな光だった。
子供の頃にとーちゃんの田舎で見た蛍よりも、もっと小さくて。
けれども蛍よりももっと綺麗な、無視できないような輝き。

それが、照明のない薄暗い部屋で、意志を持っているみたいに翔くんの体の上を漂っていた。

「……え……?」

見間違いかと思って何度も瞬きを繰り返して。
目を凝らしてようく見ても、やっぱり在るんだ。
まるで何かを探して迷ってるみたいに、その儚い光は翔くんの体の上に浮かんでいる。

頭の方から脚の方へ。
そしてまた頭の方へ行こうとするように、ゆっくり。
ふわん、ふわん、と動いていた。

「しょ、お、くん……?」

根拠なんてないけど。
その小さな小さな光が、オイラには何だか翔くんの魂みたいに思えて。
ビックリさせないように気をつけながら呼びかけた自分の声は、痰が絡んだみたいにたどたどしい。

だけど呼んだ瞬間。
その光は動きをいったん止めた。
何かを探してキョロキョロするみたいに、線香花火の芯みたいにぶるぶる震えてる。

「しょおくん、オイラここに居るよ……?」

音が無くなったような静けさの中で、オイラは自分の頭がおかしくなったのかと思いながら、すがる気持ちで話しかけた。

「翔くん……オイラ、ずっと待ってたんだよ……。
オイラ達、あの店で別れた時から時間が止まってた……ね?」

きっとお互いに、もうダメなんだ、って思い込んで。
あんまりにも相手が好き過ぎて、決定的に失うのが怖くて逃げた。

どんなに忘れようとしても、いつも心のどこかでは、もしかしたら偶然にどこかで会えるんじゃないかって怯えながら期待して。
オイラの一部は、あれからずっと、あのお店に囚われたまんまだった。

忘れようとして行きずりの関係をいくら持ったってさ。
結局は大人になり切れなくて、君の温もりだけをずっと求めてた。

「やっと迎えに来てくれたと思ったのに……もう二度と離れない、って……そう思って、オイラ嬉しかったんだよ、翔くん」

大変な事故に遭ったのに、それでもこの世に留まって、オイラを探して会いに来てくれた。

「翔くん……」

語りかけると、光は震えるように小さく揺れながらオイラの言葉を聴いているように思えた。


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