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冬のニオイ

第28章 Hope in the darkness

【翔side】

夜が明けて間もないのか、まだ薄暗い部屋の中で、智君の輪郭だけがぼんやり発光して見えてたよ。

あの、ホラ、天然石の。
フローライト? だったかな、確か。
蛍石、って呼ばれてる石。
あれみたいに、ふわ~っと淡く光ってた。

久しぶりに外気に触れた眼球を潤すみたいに、痛くも辛くもないのに涙が勝手に流れて。
目が慣れるにしたがって、貴方の柔らかそうな髪が見えてくる。

「……さ、とし、くん?」

腕も指も、顎も喉の奥も。
舌でさえ、何もかも重かったけど、俺は大好きなあなたを確かめたくてギシギシいう肉体を動かした。

思った通り、相変わらず柔らかな髪の感触と、貴方の体温を感じながら。
ああ、カラダに戻って来たんだ、と思った。

「っ、しょおっ」

「やっと会えた……」

「しょおくんっ!!」

俺に覆いかぶさって来た貴方の襟元から、懐かしい、懐かしいニオイがした。
ゆっくりと腕を動かして、貴方の背に回す。

もう二度と、離れない。





それからが大騒ぎだった。
巡回の看護師さんが来て、医師が来て。
家族が呼ばれて。

俺が智君の手を離さないから、検査室のギリギリまで智君が一緒に入ってさ。

駆けつけてくれたお袋は泣き腫らした目をしてた。
俺を見てボロボロ泣いて喜んでくれたんだけど。
智君はちょっと困った様子で、何度か俺の手を離そうとしてさ。

優しい仕草で繋いでる手をほどこうとするから、その度にヤダ、って言った。
俺、まだ手に力が入らないから握ってて、って。

俺があまりにも智君に執着してるから、お袋は内心で後遺症でおかしくなったのでは、と心配してたらしい。

智君が名刺を出してきちんと挨拶してくれたし、そのうちタイミング良くぶっさんが来て。
俺達三人が親しく語り合う様子を見て、お袋は智君が昔からの友人なんだと納得したようだった。



翌日から沢山の検査をして、体力が戻るまでしばらくかかって。

一人でトイレに行けるようになるまで1週間ぐらい?

その後、同じフロアであれば歩いてもいい、と言われて、ゆっくり体を慣らしていった。

結局、1階にある売店まで一人で自由に行けるようになるまで、1か月ぐらいかかった。


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