冬のニオイ
第29章 LIFE
【智side】
「あ、そのことなんですが……。
僕はもう、踊りからは長いこと離れていますし、きちんと先生についたわけでもないので。
あの、今回のお話は」
「…………」
キタムラさんの顔に力がこもった。
それが礼儀だからなのか職業柄なのか、この方は他人の話を遮るということをしなくて。
相手が話し終わるまでじっくりと耳を傾けて待っててくださるんだけど。
意外と表情が豊かで、特にタツオミ君のことがからむと感情が顔に出てしまうことがあるのが面白い。
濃い顔で、訴えるようにオイラを見つめてくる。
内緒だけど意外とコミカルで、正直、笑いそうになることもあったりして。
でも、タツオミ君命のこの人にとっては、切実な話なんだろうなぁ。
翔くんがタツオミ君になっていた間も補聴器を身につけてはいたけれど、それまでのタツオミ君とは発声が違ってて、あまり違和感なく喋れていたこととか。
病弱だったタツオミ君がオイラと一緒にダンスを踊った話なんかが、キタムラさんにとっては物凄く重要な事だったらしい。
翔くんにも自分がタツオミ君に入っていた間のことは、実際のところどういう状態になっていたのかハッキリわからないみたいで、何もかも憶えているわけでもないみたいなんだ。
だから、あくまでも推測だ、って言ってたけど。
例えば医療の症例で多重人格の場合とか、人格によって健康状態が変わるということがあるらしい。
病弱な人格が表に出ている時には、検査をしても実際にそれが数値に現れるんだけど、別の日に健康な人格が出ている時に同じ検査をしても、全く違う結果が出たりする記録が海外にはあるんだって。
極端な話、腫瘍とかも、人格によって現れたり消えたりする症例が本当にある、って本に書いてあるって。
人間の肉体と、心とか魂? とかの繋がりは、きっと計り知れないものなんだろうねぇ、って二人で話したりした。
タツオミ君の将来を案じているキタムラさんにとっては、健康問題は重要なことに決まってる。
オイラに何が出来るかはわかんないけど、翔くんにまた会わせてくれたのはタツオミ君だから、俺も出来る限りのことは協力したいと思っていた。
「あ、そのことなんですが……。
僕はもう、踊りからは長いこと離れていますし、きちんと先生についたわけでもないので。
あの、今回のお話は」
「…………」
キタムラさんの顔に力がこもった。
それが礼儀だからなのか職業柄なのか、この方は他人の話を遮るということをしなくて。
相手が話し終わるまでじっくりと耳を傾けて待っててくださるんだけど。
意外と表情が豊かで、特にタツオミ君のことがからむと感情が顔に出てしまうことがあるのが面白い。
濃い顔で、訴えるようにオイラを見つめてくる。
内緒だけど意外とコミカルで、正直、笑いそうになることもあったりして。
でも、タツオミ君命のこの人にとっては、切実な話なんだろうなぁ。
翔くんがタツオミ君になっていた間も補聴器を身につけてはいたけれど、それまでのタツオミ君とは発声が違ってて、あまり違和感なく喋れていたこととか。
病弱だったタツオミ君がオイラと一緒にダンスを踊った話なんかが、キタムラさんにとっては物凄く重要な事だったらしい。
翔くんにも自分がタツオミ君に入っていた間のことは、実際のところどういう状態になっていたのかハッキリわからないみたいで、何もかも憶えているわけでもないみたいなんだ。
だから、あくまでも推測だ、って言ってたけど。
例えば医療の症例で多重人格の場合とか、人格によって健康状態が変わるということがあるらしい。
病弱な人格が表に出ている時には、検査をしても実際にそれが数値に現れるんだけど、別の日に健康な人格が出ている時に同じ検査をしても、全く違う結果が出たりする記録が海外にはあるんだって。
極端な話、腫瘍とかも、人格によって現れたり消えたりする症例が本当にある、って本に書いてあるって。
人間の肉体と、心とか魂? とかの繋がりは、きっと計り知れないものなんだろうねぇ、って二人で話したりした。
タツオミ君の将来を案じているキタムラさんにとっては、健康問題は重要なことに決まってる。
オイラに何が出来るかはわかんないけど、翔くんにまた会わせてくれたのはタツオミ君だから、俺も出来る限りのことは協力したいと思っていた。