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冬のニオイ

第30章 Baby blue

【潤side】

何となく、この人だったら、と思って。
俺は中居さんに、あれからずっと考えていたことを訊いてみた。

「あの、ちょっと質問してもいいですか?
俺、最近ある人に、状況が問題なんじゃなくて自分の望みを優先すればいい、って言われたんですけど……」

「ああ~なるほどねぇ」

「それってどういう意味なんでしょうか」

「は? 俺に訊く?」

中居さんはちょっと迷惑そうに眉間にシワを寄せて俺を見た。

「え。だって今、ああ~、って。
すっげぇ、解る~、みたいに頷いたじゃないですか」

「それは、お前、基本だろう。
わかったテイで話を聴くのはさ」

「テイ!? テイって何すか!!
俺、今、真面目に訊いてるんですよ!
テイ!?」

酷いはぐらかし方だ。
俺は上司相手に思わず友人のように地が出てしまう。

中居さんはそんな俺を見ていかにも楽しそうにニヤニヤ笑ってる。
目をクリクリさせて嬉しそうだ。

「酷い! 俺の新しい上司、酷い人だよ!!」

「わかった。わかったって。
いや、わっかんねぇけど。
アレだろ、ホラ、つまり。
仕事で言ったら、満足感とか充実感とかはさ、本当は状況じゃないよ」

「はい?」

「だからぁ、そうだな、なんて言うの?
幸せだな、って感じるのって自分の心の問題だから。
自分が心地良い状態でいられるように自分で選んで行動すれば良いんじゃないの?
変えられるものは変えたら良いし」

「……わかりません」

本当にピンと来なくて、気持ちが落ち込んできた。
俺って頭が悪いんだろうか。

「ああ俺、説明下手だから。
なんだ、ホラ、自己嫌悪ってヤだろ?
価値がないとかさ、思うのは辛いじゃん」

「はい」

「自分が嫌になってるなら、それは何かが違うんだよ。
相手の為でも自分の為でも理由は何でも、そんなのは幸せじゃない。
だから、そうなることはするなよ!」

「はい」

「そんで俺の部下には仕事を楽しむ義務がある!
どうやっても1%も、全っ然、一つも楽しくなかったら、必ず俺に言え!!」

「はい!」

「苦しい時は苦しいと言ってヨシ!
苦しいを放置しないこと!! OK!?」

「はい!!」

「よろしい! じゃぁ、俺は行く!!」

「有難うございました!!」

流れで頭を下げた俺に、中居さんは、うむ!! と頷いて去って行った。

ドアが静かに閉じた。


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