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冬のニオイ

第3章 サヨナラのあとで

【翔side】

三人で居ると俺ばかり喋ってたのが思い出される。

言わなくてもいいようなドジをやった話とか、おふくろとケンカした話とか。
今にして思うと、きっと周りからは自分アピールの過ぎる奴、って嗤われてたのかもしれない。

智君は口数が少ないから、つまんないんじゃないか、ってさ。
最初の頃は結構それが気になってしまって。

本当は智君の隣に座りたかったのに、気恥ずかしくて、いつも間にぶっさんを挟んでた。

あの柔らかな笑顔に見惚れてからは、もっと笑って欲しくて。
こっちを見て欲しくて。
俺に関心を持ってもらえないかな、って、一人で一生懸命喋ってた。



ああ、それで、何の話だったっけ?

そうだ、智君の話。



「……昔の話だし、相手があることだから詳しいことまでは勘弁して欲しいんだけど……」

「うん」

ぶっさんは目の光を和らげて、静かな顔で俺を見てた。
俺の手の中で、握ってたウイスキーのロックが促すようにカランと音を立てる。

「付き合い始めたのは出会ってから1年ぐらい経ってからかな……。
お互い女としか付き合ったことが無かったし、智君は奥手だったから」

「お前はへたれだし?」

「ふっ、そうだね」

男同士が付き合ってたなんてシリアスな話に、ふざけた返しをしてくれるのが有難い。

昔ならムッとしたかもしれないけど、実際本当に俺はへたれだった。
何となくお互いの気持ちがわかっていても、踏み出すまでには結構時間がかかって。
あの人に告白するには物凄く勇気が必要だった。
受け入れてくれた時の天にも昇る気持ち。
何より大切だったのに。

付き合い始めてからも、やっぱり普通のカップルと同じってワケにはいかなくて、街中で手を繋いで歩くなんてことは出来なかった。
あの人はとてもシャイなところがあるし、多分、自分のことよりも俺の為に、目立つのを嫌がったから。

「人目があるから、って、いつもドライブばっかしてたよ。
俺、免許取って間もなかったしね……」

言いながら、どうしても視線が下に落ちる。

楽しいことを思い出そうとすると、いつも自分が智君を傷つけたことが先にやってきて、容赦なく俺を責めた。


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