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冬のニオイ

第3章 サヨナラのあとで

【翔side】

「……教授の娘だったんだって?」

ぶっさんが言っているのが、俺と智君が別れることになった出来事のことだとわかって、思わず固まる。

俺達二人にとっては突然隕石が降って来たも同然の、嵐の中に放り出されたような事件だったけど。傍から見れば何という事もない、ただの面白おかしい噂話。
散々ネタにして人の尊厳を傷つけ、飽きたら放置する。
そういう類の話。



俺と智君はどっちも男だったけど、関係性としては多分、普通に仲の良いカップルと何も変わらなかった。
くだらないことで笑って、たまにケンカして。
人前では隠してたけど二人きりの時にはイチャイチャとじゃれ合ってた。

お互いがお互いを何よりも大切に想いながら、付き合ってる時間が更新されていって。
二人の将来に結婚という選択肢が無いことだけがハードルで。

それでも一緒に居られたら十分だったんだ。
まだ若かったし、俺も智君もそこまで具体的に考えてたわけじゃない。
別に誰にも迷惑なんか掛けていない、普通の恋人同士だった。

『しょおくん、大好き……』

『俺も……愛してる』

ただお互いを愛して、愛されて。
二人で笑って。
一緒に過ごす時間を、ひっそりと守ってたのに。



ある日突然、大学の掲示板に貼り出された智君の写真。
男二人でホテルの入口へ抱き合うように向かうところと、ロビーからエレベーターに乗り込むところが写ってた。

見ようによってはキスしているようにも見えるその画像は、智君の顔だけハッキリと判別がつく状態で、もう一人の男の顔にはボカシの加工が入っていた。

智君はウチの学生じゃなかったから、ダンスの関係で智君を知ってた極少数の奴以外には、大して意味のない掲示だったんだ。
唯一人、俺だけがアレを見て硬直してた。

『警告 魔性のゲイ  本校の男子生徒を物色中!!』

週刊誌を真似たのかアオリでつけられていたタイトルを、俺は今でも憶えている。
面白おかしく書かれたドキュメントの内容を読んだら、あまりにも腹が立って。
怒りのあまり握った拳が震えたことは記憶にあるけど、記事の内容自体はもう忘れてしまった。



「二宮と相葉から聞いたよ。
あの写真と音声データは、教授の娘が仕組んだんだろ?
大野と別れさせようとしてさ」

「そうらしいね……」

確かに首謀者は教授の娘だった。


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