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冬のニオイ

第5章 リフレイン

【潤side】

そういう優しさを、その後もいくつか見せてくれて。

他人にあんまり興味がないタイプの人に見えるけど、ちゃんと一緒に居る相手のコンディションは気にかけてくれてるんだな、って尊敬するような気持を持った。

自分に都合の良い受け取り方かもしれないけど、誰もお前のことなんか気にしてないから格好良くしてなくても大丈夫だよ、って。
もっとリラックスして自由に息をしな、って言われてるような気がした。



昨年4月の異動で転勤になってからの付き合いだから、実はまだ、この人については知らないことの方が多い。
でも顔を合わす機会がある度に、物静かで綺麗で、優しい人だな、って感じて、ずっと気になってた。

この人が居る設計事務所へ顔を出すと、あ、今日も居るな、って密かに嬉しくてさ。
例えが悪いかもしれないけど、猫とか犬とか可愛い小動物を見るような気持で、日々の小さな楽しみにしてたんだ。



絶対ノンケだろうと思ってたから誘う勇気はなかった。
それが、ひょんなことから一夜を共にして。

昼間の物静かな顔からは全く想像できないような乱れ方で、俺はアッと言う間に本気になった。
落っこちる、ってこういう事かと思った。

年齢的にも、もういい加減な遊びは沢山だったし、女性と結婚する気は端からない。
そろそろ本気で一生を共に過ごすパートナーが欲しいって、切実に思っていたから。
今の俺は、この人に何とか恋人になって欲しくて、必死だった。



「まだ、熱いですか?」

ぼんやりしてるから訊いてみる。
え? って顔で、不思議そうにこっちを見た。
この人がいつも静かなのは、どっか自分の世界にTRIPしちゃってるんだろうな。

「コーヒー、まだ熱い?」

言うと、自分がカップを手に持ったまま固まっていたことに、ようやく気付いたみたいで。

「あ、うん、そっか」

両手でカップを抱えたまま口元に持って行って、温度を確かめるみたいに舌でカップの縁を一度舐めた。
それから唇をつけると、ビックリした様子ですぐ離す。

「あ、大丈夫? 熱い?」

こくんと頷いて、唇を「ンッ」って引き結ぶ。
仕草がイチイチ可愛らしい。
そして、セクシーだ。

今度は慎重に行こうと思ったのか、ふぅ、ふぅ、って息を吹きかけてる姿がマジで可愛くて。
煽情的で。

俺は仕事中なのに、思わずこの人との『初めて』を思い出す。

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