冬のニオイ
第5章 リフレイン
【潤side】
11月のその日は、ウチの会社の創立50周年記念パーティーがあった日だった。
協力業者で付き合いのある大野さんのところでも、社長と大野さんとの2人が出席してくれてた。
いわゆる下請けで、社長は元々ウチの会社に長く居て独立された方だ。
挨拶回りも忙しかったようで、役付きのお偉いさんの間をアチコチと移動しているのを何度か見かけた。
大野さんはと言うと、探してはみたんだけど、何しろ結構な人数の参加者だったから中々見つけられなくて。
気がついた時には、彼は一人でポツンと壁際の椅子に座っていた。
それが淋しそうで。
静かな人だし、騒がしい場所が苦手なんだろう。
なんだか酷く疲れている様子に見えた。
顔色が悪いような気がして傍に行きたかったけど、招待客の地主さん達(の奥様)が次々と声を掛けてくるから、その場を抜けるのが難しくって。
気になってチラチラと大野さんの様子を見ていたのに、そのうち姿が見えなくなったから、先に退出したんだろうと思っていた。
だけどその後、思わぬ場所で大野さんに会えたんだ。
会がお開きになった後、俺はいつも行くショットバーへ一人で向かったんだけど。
まさかそこに大野さんが居るとは思わなかった。
しかも、かなり酔っぱらってた。
カウンターに一人で座って、伸ばした片腕を枕代わりに頭を乗せ、すっかり上体を倒してる。
目の前にある熱帯魚の水槽をぼんやり焦点の合わない目で見つめてた。
「え、大野さん?
嘘でしょ、なんで居るの?」
こういう場所で知り合いに会ったとしても、いつもなら決して声を掛けたりしないのに、俺はあまりにもビックリして不躾に名前を呼んでしまう。
ここは何て言うか、まぁ、ソッチの人達が集まる店で。
カウンターに一人で座ってる人はその晩の相手を募集中、ってのが暗黙の了解になってる。
大野さんは目が悪い人が良くやるみたいに目蓋を閉じ加減にして、俺をしばらく見てから、ふにゃっと笑った。
「なんか見たことある人ら。
ふふっ、誰だっけ?」
仕事では見せない笑い方に、まず見惚れた。
酔ってるからなのか、邪気のない、無防備なくらいの幼い笑顔。
ここに居るってことは、そういうことだよな?
急に心臓がバクバク言い始めて。
大野さんに聞こえるんじゃないかと心配しながら、落ち着かなくちゃ、って唾液を飲み込んだ。
11月のその日は、ウチの会社の創立50周年記念パーティーがあった日だった。
協力業者で付き合いのある大野さんのところでも、社長と大野さんとの2人が出席してくれてた。
いわゆる下請けで、社長は元々ウチの会社に長く居て独立された方だ。
挨拶回りも忙しかったようで、役付きのお偉いさんの間をアチコチと移動しているのを何度か見かけた。
大野さんはと言うと、探してはみたんだけど、何しろ結構な人数の参加者だったから中々見つけられなくて。
気がついた時には、彼は一人でポツンと壁際の椅子に座っていた。
それが淋しそうで。
静かな人だし、騒がしい場所が苦手なんだろう。
なんだか酷く疲れている様子に見えた。
顔色が悪いような気がして傍に行きたかったけど、招待客の地主さん達(の奥様)が次々と声を掛けてくるから、その場を抜けるのが難しくって。
気になってチラチラと大野さんの様子を見ていたのに、そのうち姿が見えなくなったから、先に退出したんだろうと思っていた。
だけどその後、思わぬ場所で大野さんに会えたんだ。
会がお開きになった後、俺はいつも行くショットバーへ一人で向かったんだけど。
まさかそこに大野さんが居るとは思わなかった。
しかも、かなり酔っぱらってた。
カウンターに一人で座って、伸ばした片腕を枕代わりに頭を乗せ、すっかり上体を倒してる。
目の前にある熱帯魚の水槽をぼんやり焦点の合わない目で見つめてた。
「え、大野さん?
嘘でしょ、なんで居るの?」
こういう場所で知り合いに会ったとしても、いつもなら決して声を掛けたりしないのに、俺はあまりにもビックリして不躾に名前を呼んでしまう。
ここは何て言うか、まぁ、ソッチの人達が集まる店で。
カウンターに一人で座ってる人はその晩の相手を募集中、ってのが暗黙の了解になってる。
大野さんは目が悪い人が良くやるみたいに目蓋を閉じ加減にして、俺をしばらく見てから、ふにゃっと笑った。
「なんか見たことある人ら。
ふふっ、誰だっけ?」
仕事では見せない笑い方に、まず見惚れた。
酔ってるからなのか、邪気のない、無防備なくらいの幼い笑顔。
ここに居るってことは、そういうことだよな?
急に心臓がバクバク言い始めて。
大野さんに聞こえるんじゃないかと心配しながら、落ち着かなくちゃ、って唾液を飲み込んだ。