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冬のニオイ

第5章 リフレイン

【潤side】

ボトルに入ってる酒が残り1cmくらいになるまで二人で飲んで。って言うか、もう飲ませられないから殆ど飲んだのは俺だけど。
大野さんを抱えるようにしてホテルへ行った。

大野さんは終始上機嫌で、店で会った時からずっと、回らない口でへらへらと話してた。
仕事の話題は出なかったから、俺も適当に酔っ払いに相槌を打ちながら、ふにゃふにゃ笑う顔を見て楽しんでた。

「一人で何のお祝いしてたんですか?」

「ん~、結果、良かったからお祝いっ。
アレで良かったんらなぁ、って思ってさ。
元気みたいらし、一緒に仕事してるなら良かったなって。
まつもとくんも、そう思うれしょ?」

「あ~、良くわかんないけどイイ酒が飲めてるなら良かったです」

「……かれ、たことも……会わ……った、ことも……」

「ん? 寝ちゃった? 大丈夫?」

「…… 起きてるお。
まつもとくんはぁ、イケメンらなぁ~。
オイラね、ハデなかお好きなの。
自分があっさりだから、かな?」

俺を見上げて、えへへっ、って笑うのが、もう嘘みたいに可愛い。
ホントにこれがあの物静かな大野さん? って驚く。

鼻にかかった声で、甘えるようにもたれかかってきて。
『かな?』って言う時に、『な?』のところで声が高くなる。
一人称がオイラなのも初めて知った。

「俺よりもあなたの方が素敵です。
とっても綺麗ですよ。
美人です」

酔うとこんな風になるのか、と大野さんが話す度にビックリしたけど、嬉しい驚きだった。
もう酒が足に来てて、ホテルの廊下を歩く間も爪先がぐにゃぐにゃ曲がって。
それを自分で面白がって笑ってる。

「ふふっ。
あんね、しむらけんの物まねしてあげる。
ころばない酔っ払いね?」

「ハイハイ。
真似しなくても、もう出来てますよ」

「吐くときはポーズすんの。
ばれれーな的な?
んふふっ」

腕にしっかり抱え直して、部屋の鍵を開けて。
中に入ってすぐのところにクローゼットがあるから、そこでジャケットを脱がせた。

「あれ?
そう言えば大野さん、コート着てないの?」

「ん~? コート……。
コートないの?
わかんない……。
オイラ、コートなくしたかも」

首を傾げて俺を見上げてる泣きそうな目と、濡れた唇が何とも可愛くて。我慢できずに脱がせながらキスをした。


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