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冬のニオイ

第9章 Are You Happy?

【智side】

潤とのことをどうするか、気持ちを整理したくて図面を引いているうちに、当の潤が迎えに来てしまって。
どうしたものかと思いながら、隣のビルの小料理屋へ入った。

何となく頭が重い気がして、あまり酒を飲みたい気分じゃなかったけども、舐める程度ならいいか、と潤に付き合うことにする。

ハッキリ断ろうとしたのは最初だけで、真剣に考えて欲しい、と言われたら、ちゃんと考えないといけない気がして。

だけど、OKする踏ん切りもつかないまま……。
結局、相手が自分に好意を持っていることを知りながら、あいまいな態度をとり続けてるのは卑怯だと思った。

優しい潤を傷つけるのが怖くて言い出せなかったけど、どうしたって、恋愛ごとのヤル気というか、そういう情熱はオイラにはもうない。

さっき店の前で話してた時、翔くんと別れた原因を思い浮かべてた。
全ては自分の気持ちをちゃんと言えなかったオイラが悪かったんだ。
同じ失敗を繰り返したらいけない。

今日こそはもう、ちゃんと断らなくては、と考えながらタイミングを見計らっていた時に、突然、子供の声で名前を呼ばれた。

さとし、ってオイラのこと?

驚いて背中を反らし、椅子を後方に傾けて店の入口を見る。
けど、同時に潤の隣に居たお客さんが立ち上がって通路を塞いだから、オイラの位置からはどうなってるのか分からなくなった。

「手をはなせよっ!」

「あ痛っ、噛みついたっ。
ぼっちゃんっ。イタタタ」

店の奥に居るオイラ達に向かって小さな足音が精いっぱい駆けて来たけど、潤の隣に居た男が自然な動作で子供を抱き上げ、砂袋のように肩に担いでしまう。
知ってる子なのか、そのまま店から連れ出すつもりらしい。

子供は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、真っ直ぐにオイラを見ていた。

「さとしくんっ!
会いたかったっ!!」

こっちに向かって必死に手を伸ばしてる。
オイラはびっくりし過ぎて固まってしまった。

「知ってる子?」

潤に訊かれる。

「わかんない。
知らない、と思う」

答えながら、その子のあまりにも必死な様子が胸に迫ってきて、オイラは思わず椅子から立ち上がる。
つられるように潤も立ち上がって、オイラの斜め前に立った。


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