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冬のニオイ

第11章 アオゾラペダル

【智side】

「きのうはごめんね、ビックリしたでしょ?
あのね、キタムラさんは来られなくなったから」

ニコニコ笑って、タツオミ君が片手でオイラの手を掴んだ。
ジーンズに真っ赤なダウンジャケットを着てて、ワンショルダーバッグを肩から斜めにかけてる。
赤い色が良く似合ってたけど、問題はそこじゃなくて、何でこの子がここにいんの?

「え、っと……え?」

「あれ?オレのことおぼえてない?
さとしくん、ねぼけてる?
もしかして、ねむい?」

ちょっと首を傾げてオイラを見上げる。

「えっと、憶えてるよ。
タツオミ君だよね?」

「うん、まぁ、そう」

困ったような顔をして、もう片方の手で頭をかく。
人差し指でポリポリって。
その仕草が。

昨日も思ったけど、この子を見てると翔くんを思い出す。
微笑んだ時に形を変える大きな目の印象とか、そっくりだ。
こっちが恥ずかしくなるような、愛しくてしょうがない、みたいな視線。
翔くんはいつも見守るような眼差しでオイラを見てた。

「キタムラさんの代わりに来てくれたの?」

「うん、そうだよ。ね、スマホかして?」

何でもない風に言われたから、家に電話するのかな? って思ってオイラは言われるままに渡す。

タツオミ君は凄く慣れた手つきで画面を素早くタップすると、しばらくの間何か操作してからオイラに端末を返してよこした。
見ると画面が真っ黒だ。

「え? 電源落ちてる?
うそ、充電してあるのに。
壊れたのかな」

おかしいなと思いながら電源を入れ直すと、待ち受け画面が出る筈が、何故かパスワードを入力する画面が表示された。

え、オイラ、画面ロックなんて設定してないのに。

タツオミ君を見たら、んっ、ってした唇を引き結んで、オイラから視線をそらした。

「タツオミ君、これ、なんかした?」

「うん」

「うん、って」

「ジャマされたくないもん。
PINロックにしたから、さとしくんだったらカイジョできるよ。
4ケタのすうじね」

はぁ?

全然悪びれないで言うからオイラは呆れてしまった。

「ダメだよ、人のスマホにこんなことしたら。
悪い子だなぁ、タツオミは。
パスワード教えて」

言っても、えへへ、って笑ってる。

おい、嘘だろ?


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