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冬のニオイ

第11章 アオゾラペダル

【智side】

「モバイルデータつうしんもOFFにしたから、でんわもこないよ。
さとしくん、どうせ休みの日はデンワでないでしょ?
あのね、きょうはオレといっしょにいよう?
かえるときロックかいじょしてあげる。
それとも、もしかしてきのうの人とデートのよていでもある?」

耳のせいか多少ぎこちない喋り方だけど、大人みたいな言葉が次々に迷いなく出てきてオイラの方が追いつけない。
今時の子供って、こんな頭いいんだ?

オイラはとりあえず、タツオミと背の高さを合わせるためにしゃがんだ。
何から話せばいいのか考えてたら、またタツオミが喋り出す。

「ごめんね、ゴーインだよね。
でもオレ、あんまりじかんないんだ。
あとでちゃんと、ぜんぶはなすから。
おねがい、さとしくんオレといっしょにきて?」

どうしようか、と思ってタツオミの顔をじーっと見てた。
良い家の子供みたいだし、小さいのに一人で自由に出歩かせないだろ。
キタムラさんの代わりに来た、ってのは無理がある。

連絡して確かめようにもキタムラさんの番号はスマホの中だし、彼の名刺は家に置いてきた。
ウチは宅電がないし、連絡するには公衆電話まで行かないといけない。

う、面倒くさいな。何なの?
躰が怠いせいか考えるのがおっくう。

「はぁ~。タツオミ君、嘘はダメだよ」

「おこらないで、おねがい」

「お家の人が心配するでしょ。
オイラ、誘拐犯になって捕まっちゃうよ。
送ってあげるから、お家の場所、教えなさい」

呆れながら言うと、タツオミ君は悲しそうな顔をして唇を尖らせた。
表情が豊かなところも、やっぱり翔くんを思い出させる。
オイラの手を握ったまま、イヤイヤ、って肩を前後に揺らして。

「タツオミ君?」

呼びかけると、ぷいっ、って横を向いた。
アゴを持ち上げて、視線を合わせようとしない。
繋いだ手が二人の間でぶらぶらと揺れるばかり。

ダメだ、こうなったらテコでも動かない。

そう思って、翔くんとごっちゃになってるな、と気づいた。
オイラは拗ねてむくれた翔くんには、勝てたことがなかった。

「はあああ~~~~……。
わかったよ。
その代わり、まずキタムラさんに連絡して。
それでOKもらえたら、今日は一緒に遊んであげる」

「やった!!」

タツオミが嬉しそうにガッツポーズをした。

もう。
しょうがないなぁ。


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