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冬のニオイ

第12章 TOP SECRET

【翔side】

柔らかい表情のまま、智君は子供の俺に向かって、ちゃんと話をしてくれた。

「それでね、その人はオイラに、もっと他の資格とかも取って興味があることをどんどんやって行くといいよ、って言ってくれたんだけど。
オイラ自分が何をしたいのかもわかんなくて。
将来とか、いくら考えてみても、自分なんかに何が出来るんだろう、って。
だからいつまでもバイトのままでプラプラして、いいかげんで」

「…………」

「そんで嫌われちゃったみたい。
きっと呆れられたんだろうな、って、お別れしてから思ったのね。
翔くんは優しいからハッキリ言わなかったけど、やっぱりオイラがだらしなくてダメな奴だから、恥ずかしかったのかな。
だから信じてもらえなかったのかな? って。
ふふっ、仕方ないよねぇ。
実際ダメな奴なんだもん」

「………がうよ」

そうじゃないよ、智君。
貴方はダメな奴じゃないし、嫌ってなんかない。
嫌ってなんか。
そんな風に思ったことなんか一度もないよ。

俺はただ、貴方に自信を持って欲しかったんだ。
自分なんか、って卑屈にならないで欲しかったの。
勉強ができない、って思い込んで可能性を捨てないで欲しかったんだよ。

確かに高卒の資格を取るように強く勧めたし、他の資格も取ったらいいのに、って何度も言ったけど。
貴方の為になると思ってたんだ。
そんなに追い詰めてたなんて。

違うよ、って思わず声が出たけど、智君には聞こえなかったみたいで。
今の姿でコメントするのはおかしいから、それ以上言えなくて黙ってた。

「まともな社会人になって建築士の資格を取れたら、今度こそ胸を張ってその人に会えるかな、って思ってたんだけどね。
……やっと資格が取れた時にはもう凄く時間が経ってて、その人がどこに居るのかも知らないし。
その人、オイラのことでケンカ騒ぎを起こして大学辞めたんだって。
それ聞いちゃったら、どうしても探して会いに行く勇気が出なくて」

ふふっ、って淋しそうに、智君は微笑んだ。

知ってたのか。
貴方のせいじゃないのに、もしかして自分を責めてた?

ごめん。
本当にごめん。

もっと早く探していれば、誤解を解いてやれたのに。
貴方のせいじゃない、って伝えられたのに。

会いに行く勇気が無かったのは俺も同じだよ。



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