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冬のニオイ

第12章 TOP SECRET

【翔side】

「ふふっ、建築士ってね、先生って呼ばれる職業だから、自分が偉いって勘違いしちゃってる人も結構いるんだよ。
おかしいよね。
だって、中卒でじーちゃんと大工をしてたオイラも、先生って呼ばれてメーカーさんの接待を受けてるオイラも、中身は同じなんだよ。
ばかばかしいなぁ、って思って。
結局は人間性なのに。
……オイラは相変わらず臆病でだらしなくて、今でも何にも変わってないし。
肩書なんて、あってもなくても意味ないなぁ、って。
学歴とか、ちゃんとしてるとかさ、こだわってたのは翔くんじゃなくて、本当はオイラだったんだ。
それで一番大事な人を失っちゃった。
……なーんて。
子供相手に何言ってるんだろ。
わかんないよね。
ゴメンな、タツオミ。
タツオミ?」

話しかけられてるのは分かってたけど、返事が出来ない。
駄目だ、泣いたら。

子供の姿になると涙腺まで子供と同じになるのか、口を開いたら泣きそうだった。

「おい、タツオミ、大丈夫?」

何とか頷いて、椅子から滑り降りる。
智君の傍まで近づき両手を伸ばすと、抱え上げて膝に乗せてくれた。

「どうした? 眠い?」

「……うん」

小さく返事をして智君の首元に顔をうずめると、この人の優しさを集めたような、いじらしくて切ないニオイがした。

「……ごめんなさい」

一人ぼっちにして。
置き去りにして。

貴方から自信を奪ったのは俺だった?
惨めにさせてたのは俺だったのかな……。

背中をぽんぽんと叩く手が優しくて、俺は泣くのを必死に我慢してた。



「ねぇ、タツオミはどうしてオイラのことを知ってるの?」

智君が耳元で穏やかに問いかけてくる。

どこまで話せるか。
嘘はダメだし、言っても信じられないだろう。

「オイラとどっかで会ったことあるんだっけ?」

抱かれてる感触が気持ち良くて、どうしようかと考えながら、ううん、って首を振った。

「オレ、きょねん、ジコにあったの」

「事故? 交通事故?」

うん、って頷く。

「そのときいっしょにジコにあった人と、さとしくんのはなし、したんだ」

「うん」

「オレ、ジコでたましいがぬけたの。
もどれなくなって。
あまりにもザイアクカンが大きいと、あっちにも行けないんだって。
だから、その人がカラダをかしてくれる、って」

背中をぽんぽんとしてる手が止まった。


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