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冬のニオイ

第13章 Cool

【潤side】

ファミリー向けにテーブルと椅子も設置されてるのを見つけて、そこに座る。
智とタツオミが並んで、向かい側に俺。

買って来たバケットサンドは、三人でいろんな味が楽しめるように3種類。
全部に3等分の切れ目を入れてもらってテイクアウトしてた。
それぞれ一切れずつ、違う味のを選んで食べ始める。

可笑しかったのはタツオミが結構マメで、おしぼりのウエットティッシュや紙ナフキンを配ってくれたり、小さな手で不器用そうにテイクアウトカップの蓋を外して、それを智の前に置いたりしてたこと。

ぎこちない仕草がいかにも一生懸命、て感じで、可愛らしい。
俺は自分も飲み会とかがあると大皿から料理を取り分けたりする方だから、ちょっと親近感がわいて感心した。

「タツオミ、偉いなぁ。
世話焼くのに慣れてる感じ。
弟か妹でもいるの?」

「うん、まぁね。
でもリョーリはできないよ」

マセた口調で言うのが微笑ましい。
智がちょっと驚いてるような顔で、タツオミを見てる。

「でもなんでカップの蓋外すんだよ」

「だって、そのほうがスグにさめるでしょ。
フタがついてると、わかんないから、あつくてビックリするじゃん。
ね? さとしくん」

って、同意を求めるように智に笑いかける。
智は不思議そうな顔で子供を見てた。

「いたーだきますっ」

元気良く言って、タツオミは気持ちいいくらいに大きく口を開けてパンにかぶりついた。
赤いほっぺたをリスのように膨らませてるのが、いかにも無邪気だ。
笑顔が可愛くて思わず頭を撫でる。

「ははっ、うまいか?」

「んっ」

補聴器をつけてはいるけど、会話には全く不自由しない。
身なりの良さから金持ちのお坊ちゃんで我儘なのかと思ってたけど、しつけが行き届いてるのか行儀も良いし、ちゃんとしてる子供だった。

智の口数が少ないのが気になってチラッと見ると、両手に蓋のないカップを抱えたまま、やっぱり不思議そうな、戸惑ってるような顔でタツオミを見てる。
半開きになってた口が動いて、小さな声が漏れた。

「…ぉくん?」

ああ、タツオミには聞こえてない。
やっぱり、小さな声だと聞こえないんだな。

「ん?」

俺が問いかけると、ハッとした様子でこっちを見て、何でもない、って首を振った。


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