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冬のニオイ

第13章 Cool

【潤side】

食の進まない智になんとか食べさせて、ゴミを片付ける頃にはちょっと風が出てきて。
まだ夕方ではないけどタツオミは俺が送って行けばいいんだし、そろそろ帰ろうかと言い出そうとした時。
目の前のスペースで派手な音楽が鳴り響く。

さっきまで指導してる人が何度か駄目出しをしてたんだけど、通しでリハーサル? をするらしい。
ダンサーは揃って同じ衣装を着てるから、ゲネプロなのかも。
自然に俺達もそっちに注目する。

上手と下手から走り出してきた少年たちが、斜めに交差しながら見事なアクロバットを披露した。

「おっ、すげぇ!」

思わず声が出る。

「さとしくんっ、これっ」

タツオミが興奮した声で叫んだ。

真っ赤なスーツを着た美少年が、ステージに見立てられた場所の中央へ向い、奥からさっそうと歩いてくる。

「Coolだ……」

智が呆然としたようにつぶやいた。



二人とも知ってる曲なのか?
俺も聞き覚えはある気がするけど……。

ああ、思い出した。
確か何とか言うアイドルグループのやつだ。

歌が進むにつれて、何となくわかってきた。
昔、会社に居た事務の子が熱烈なファンで、時々口ずさんでた気がする。

「だからもっとみすたっ!
そっとみすたぁぁ」

タツオミが歌ってる。
立ち上がって、Mr.と言う度にポーズをつけて踊り始めた。
えっ、これって、そんなに有名な曲?

「うまくさそいだせぇっ」

背後に見えるパフォーマンスとタツオミの踊りは、振りがほぼ一致してる。
腰を落とした姿勢で、膝が柔らかく内外に動いて。
足首はそれに合わせてグネグネと動いて見えるのに、上半身は対照的に大きな振り。

「タツオミ、すげぇ!」

思わず大声で言ったら、その直後にタツオミの踊りが崩れた?

「あっ、あれ? あれぇ?
わすれてるっ!?
あははっ!!
オレ、わすれてるよぉ~~」

「おいっ、タツオミ大丈夫かっ」

さっきまでの驚きとのギャップで笑いながら冷やかしてやると、隣で智の大きな笑い声がした。

「はははは!
あっははははっ!」

腹を押さえて笑ってる。
智がこんなに明るく笑うのを見たのは、初めてだった。


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