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冬のニオイ

第13章 Cool

【智side】

タツオミが一生懸命膝を動かしながらパタパタしてるのを見てたら、あまりにも可愛くて腹の底から笑いが込み上げてきた。
笑い過ぎて涙が出てくる。

懐かしくて。
ポンコツになってる時の翔くんを思い出して。
もう、オイラは笑うしかない。



翔くん。



翔くん。



あの頃まだ二人とも子供で。
だけど精一杯大人ぶって。

パフォーマンスは曲のイメージに合わせて顔から入るんだ、って。
翔くんは、いつも凄くキメキメの顔で踊り始めるのに、途中で一回でもつまずくと、あれ、あれ? って。
イケメンが崩れてさ。

笑うと目尻に皺が出来て、唇が笑顔の見本みたいな形を作るんだ。
オイラはそれが大好きだった。
どうして忘れていたんだろう。

「さとしくんっ!」

子供の顔が翔くんに見える。
翔くんが、オイラに手招きしてる。

間奏の間、こっちに来て、って呼ぶタツオミに、オイラは行かないよ、って手をひらひら振ってたんだけど。
走って来て強引に腕を引っ張られ、とうとう立ち上がってしまった。

また繰り返されるMr.に合わせて、二人で向かい合ってポーズを決める。

「まいねみずくぅくぅ~
くうぅ! じゃすとぅないへ~
わっちゅどんの~
かおにださないだけさぁ~」

歌う声に合わせて記憶を探りながら流して踊ると、向かい合ってるから左右対称になる筈のタツオミが、オイラの動きにつられて右左を間違えた。

「あはははっ! 逆だよ、逆!」

「えっ、あれっ? ええ~??」

「ははははっ!!」

それを見るとまた可笑しくなって、笑いが込み上げて止まらない。
二人でケラケラ笑いながら、しまいには何だかわからないような無茶苦茶な踊りになる。

4つ目のカウントでポーズをつけるところだけ、何とか二人で合わせて。
曲が終わった時にはタツオミと二人、しゃがみ込んでお互いを指さして大笑いしてた。

涙が出る。

涙が出るよ、翔くん。

どうしてオイラ達は、離れたの?
こんなにいつまでも忘れられないのに、どうして。

笑い過ぎてぜーぜーと苦しい息を整えながら、涙が出るから下を向いた。
突然ぶり返した激しい感情に、どうしていいかわからない。

「あ~も~、涙が出る」

仕方がないから、笑い過ぎて泣いてることにした。
何でもない。
あんまり可笑しいから、涙まで出て来ただけ……。


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