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冬のニオイ

第14章 Face Down

【潤side】

キタムラさんは、子供を見送った後も中々本題に入ろうとしない様子で。

智はキタムラさんが何か言うのを待ってるし、俺は直接関係ないから口を挟む立場でもないんだけど。
用が無いなら、なるべく早く帰りたい。

ソファに座った智が腕や腿の辺りを手で擦ってる。
落ち着かないだけかもしれないけど、寒いんじゃないだろうか。

俺は仕事上、地主さんや土地成金ならたくさん見てきたけど、流石にこういう家のことまでは知らない。
もしかしたらキタムラさんは客の前では座らないのかな、と思って、椅子をすすめた。
断るようなら、もう帰らせてもらうつもりだった。

「キタムラさん、お掛けになりませんか。
それとも、特にお聞きするお話が無いのであれば、僕達はそろそろ」

チラッと智を見ると、居心地が悪いんだろう、同意して頷いてた。

「松本様、お待ちください。
貴重なお時間を頂き誠に申し訳なく存じておりますが、大野さんにはお伝えしたいことがございます。
本来であれば当家の主がご挨拶するべきところですが、只今は海外に居りますため叶いません。
この屋敷には現在奥様とお呼び出来る方もおりません。
お二人には当家の子供が大変お世話になりましたのに誠に失礼ではございますが、私が主の代理として対応致しますことをどうぞご容赦ください」

キタムラさんが滑らかに言ったけど、長い。
若干イライラする。

「僕のことも様、ではなく、さん付けで結構です。
僕が居ては出来ない話ですか?」

「いいえ、決してそのようなことは」

一応失礼にならないように俺も営業モードにはしてるけど、ウチの会社の顧客になるような人達じゃないし。
慇懃な態度で勿体つけてるのが癇に障って、正直、聞いているのが疲れてきた。

智が俺の様子に気がついたのか、手で俺の腿にそっと触れて、落ち着いた口調で話し出す。

「あの、キタムラさん。
タツオミ君から、去年、交通事故に遭ったと聞きました。
もしかしたら、そのことが何か関係していますか?」

「……はい」

答えたキタムラさんはホッとした様子を見せた。
貫禄のある人だからそうは見えなかったけど、この人なりに緊張していたんだということに、俺はようやく気がついた。
智には、こういうところ、本当に敵わない。

体の前で両手をきちんと重ね、接客のお手本のような姿勢でキタムラさんは話し始めた。

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