冬のニオイ
第14章 Face Down
【潤side】
「昨年の11月のことですが、□□にある▲▲書店に建物の外から自動車が突っ込むという事故があったのを憶えておいででしょうか。
その際、当家の子供たち二人があの書店に居りました。
お嬢様とぼっちゃんです。
……実は、お二人は現在のところ離れてお暮しでございまして。
久しぶりにお会いできるとあって、ぼっちゃんは前日から、それは楽しみにしておられました」
意外な話に俺と智は目を見合わせる。
その事故なら俺達も現場を通りかかっていた。
智の誕生日。
智と俺が、一緒に泊った翌日の話だ。
「ドライバーが運転中に持病の発作を起こしたとみられ、大変痛ましい事故でございました。
幸いにも、当家の子供たちに大きな怪我はありませんで。
どうやら、店に居合わせたお客様が、二人を庇ってくださったようなのです。
……私はその時現場に居りませんでした。
買い物に付き添っていたメイドが目を離した一瞬のことであった、と報告を受けておりますが、実際に何があったのかは、私にはわかりかねます」
俺と智はキタムラさんの話を遮らないように黙ったままで、また目を合わせる。
きっと二人とも同じようにあの日を思い出して、偶然に通りかかっていた事実に驚いてるんだろう。
「大きな怪我はなかったと申し上げましたが、ぼっちゃんは事故の後、丸まる1か月以上も意識が戻らない状態が続きました。
退院したのは年が明けてからでございます」
「えっ、最近じゃないですか」
思わず口を挟んだ俺にキタムラさんは頷いた。
「でももう、大丈夫なんですよね?
今日だって公園でダンスして見せてくれたし、走り回って、ふざけて笑ってて。
僕達には普通の元気な子供に見えましたけど。
何か問題があるんですか?」
「ダンス、ですか……。
ぼっちゃんがダンス……。
松本さん、タツオミ様はダンスなど習ったことは一度もありません。
生来あまり丈夫ではないお子様です。
屋敷からほとんど外に出ないままお育ちになりました。
形ばかりは小学校へ入学なさいましたが、実際のところは休みがちで、勉強は家庭教師が見ています。
近頃は大分お元気になられましたが、走り回ったり、ましてやダンスなど……。
これまでのぼっちゃんを知っている人間には、到底考えられないことです」
「昨年の11月のことですが、□□にある▲▲書店に建物の外から自動車が突っ込むという事故があったのを憶えておいででしょうか。
その際、当家の子供たち二人があの書店に居りました。
お嬢様とぼっちゃんです。
……実は、お二人は現在のところ離れてお暮しでございまして。
久しぶりにお会いできるとあって、ぼっちゃんは前日から、それは楽しみにしておられました」
意外な話に俺と智は目を見合わせる。
その事故なら俺達も現場を通りかかっていた。
智の誕生日。
智と俺が、一緒に泊った翌日の話だ。
「ドライバーが運転中に持病の発作を起こしたとみられ、大変痛ましい事故でございました。
幸いにも、当家の子供たちに大きな怪我はありませんで。
どうやら、店に居合わせたお客様が、二人を庇ってくださったようなのです。
……私はその時現場に居りませんでした。
買い物に付き添っていたメイドが目を離した一瞬のことであった、と報告を受けておりますが、実際に何があったのかは、私にはわかりかねます」
俺と智はキタムラさんの話を遮らないように黙ったままで、また目を合わせる。
きっと二人とも同じようにあの日を思い出して、偶然に通りかかっていた事実に驚いてるんだろう。
「大きな怪我はなかったと申し上げましたが、ぼっちゃんは事故の後、丸まる1か月以上も意識が戻らない状態が続きました。
退院したのは年が明けてからでございます」
「えっ、最近じゃないですか」
思わず口を挟んだ俺にキタムラさんは頷いた。
「でももう、大丈夫なんですよね?
今日だって公園でダンスして見せてくれたし、走り回って、ふざけて笑ってて。
僕達には普通の元気な子供に見えましたけど。
何か問題があるんですか?」
「ダンス、ですか……。
ぼっちゃんがダンス……。
松本さん、タツオミ様はダンスなど習ったことは一度もありません。
生来あまり丈夫ではないお子様です。
屋敷からほとんど外に出ないままお育ちになりました。
形ばかりは小学校へ入学なさいましたが、実際のところは休みがちで、勉強は家庭教師が見ています。
近頃は大分お元気になられましたが、走り回ったり、ましてやダンスなど……。
これまでのぼっちゃんを知っている人間には、到底考えられないことです」