テキストサイズ

冬のニオイ

第15章 Carry on

【智side】

風邪を引いて熱を出すと、いつもあの時のことを思い出す。
翔くんと最後に会ってから間もなく、インフルエンザで寝込んだこと。

ボロボロの木造アパートで石油が切れてて、布団にもぐっていても、どうにも寒かった。
体温の高い翔くんの温もりが恋しくて、もしかしたら助けに来てくれるんじゃないか、って。来てくれるのをひたすら待ってた。

ガチガチと歯を鳴らして震えながら、部屋の中にいるのに自分の息が白く見えるのを一人で眺めてた思い出。

誰かが外階段を上ってくる気配を感じるたびに期待して、遠くなる足音に涙が出た。

あの時、熱で苦しくて、もうこのまま死んじゃうのかな、って思ったりもしたけど。
それでも、ちゃんと元気になった。
だから大丈夫、一人でも生きていける。
辛いのは今だけ……。



「しょおくん……?」

人の気配がしたから、目を閉じたままで呼んでみた。
オイラは一人なんだから誰も来るはずないのに。

「智、寒い?」

声がして、頭を撫でられてる。

「うん……だれ?……しょおくん…?」

ベッドが軋んで隣に来てくれた。
頭が持ち上がって腕に抱かれる。

「しょおくん、来てくれたの……?」

「……大丈夫だよ。
熱が上がり切ったら楽になるから」

うん。



オイラねぇ、翔くんに会うまでは一人が好きだった。
一人で好きなことをやれてたら、それが一番で。
かまわれて自分の時間を邪魔されるのが嫌だった。

時々、何故だか知らないけどオイラのことを構いたがる人がいてさ。
ああしろ、こうしろ、って親切で言ってくれるのはわかるけど、でも指図されるみたいで結構面倒くさくて。
だからどんな場所にも長く居なかった。
面倒な人が近づいてきたと思ったら、何気なく距離を取って、いつも逃げた。

だけど翔くんはオイラが逃げてもいつも探して。
見つからないように隠れてても、なんでか毎回見つかった。
ほんで、嬉しそうにオイラの顔見て笑うから、そのうちオイラの方でも翔くんを目で探すようになった。

触れてる体があったかい。
翔くんは体温が高いから、あんかみたい。

「しょおくん……」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ