テキストサイズ

美しくて残酷な世界

第1章 もどかしい

「ぁぁ、拓人、いい……」

知らない間に、涙が出ていた。

拓人さんは、所詮亜里沙さんのモノだ。

私には、拓人さんを満足させられない。

その瞬間だった。

振り返った拓人さんと、目が合ったのだ。

上半身裸で、その引き締まった筋肉質の背中。

少し汗ばんで、色気が漂う腕。

そして男として満たされている充実感を感じる顔。

どれも、私には美しいと思えた。

「……加純?」

「えっ?」

亜里沙さんが頭を上げた瞬間、ドアを思い切り閉めた。

二人が交わっている場面なんて、これ以上見たくない。

部屋に戻った私は、タオルで顔を拭いた。

拭いたけれど、次から次へとまた涙が溢れた。

「ううっ……」

拓人さんに抱かれる相手が、私なら?

こんなに胸が切り裂かれる思いはしなかったのに。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ