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君と共依存

第2章 chapter1

人生に希望なんてない。
じゃあ何で生きているのって言われたら、単に死ぬのは面倒だし本能が否定する、それだけだ。
仕事が終わると部屋に帰り、冷蔵庫の中でキンキンに冷えたビールを飲みながら、いつもの様に好きな動画サイトを眺め、そしてベッドで眠る日々。
目にうつる景色は、全て色褪せていて特に楽しいとか幸せだとは思ったこともない。
唯一自分の価値を測れるものは、仕事後に受け取る汚れた紙切れだけだ。
受け取った給料をゆっくりと数えながら、残ったビールを一気に喉に流しいれる。
すると、スマホの着信音が鳴り、メッセージアプリの通知が表示された。
画面に映し出されたその名前を確認し、私はメッセージアプリを開き、そのメッセージに返信する。
『いいよ♡明日夜7時に駅に向かうね♡』
明日はヘルスの仕事は休んで、彼に会いにいくことにした。
翌日、人の行きかう新宿駅の喫煙所で、私は彼の姿を確認し声をかけた。
「健ちゃん、ヤッホー♡」
そんな呼びかけた彼は私の方を一瞥し、ニヤリと不敵な笑みをその顔に浮かべる。
彼の名前は、三浦健司。
もともと、前の店で働いてた時の客だ。
どうやら元刑事で、今はやめて探偵事務所を経営していて、そこそこ儲かっているらしく金払いもいい。
いわゆる、わたしのパパだ。
おおよそ180センチはある長身、そして短く切りそろえたいかにもサラリーマン風の髪型、切れ長の瞳に綺麗な鼻筋でその口元には無精ひげが生えている。
端から見ても渋いイケメンだと思うのに、なぜか彼は風俗の客として私を指名してきた。
一度疑問に思い、彼に訊いたことがある。
「ねぇ、なんで風俗なんか来るの?健ちゃんみたいなお金持っててイケメンなら女の選び放題じゃない?」
そう聞くと煙草の煙を吐き出しながら、健ちゃんは笑いながら私にこう言った。
「バーカ、金の関係ならいくらでも俺の都合いいように物事は運ぶし、あと腐れなくていいに決まってるだろ?女なんか一回寝ると、やれ彼女にしろだのセフレじゃ嫌だの結婚しろだの面倒な事になる。こうやってお前に金払って遊んでるくらいが一番気楽でいいんだよ」
男もなかなか大変なんだな、とその話を聞いて妙に納得した自分がいた。
そんなこんなで、健ちゃんとの関係はもう1年以上になる。
風俗店でモンスターにエンカウントするよりも、決まった相手と本番ありのほうが、正直割りはいいので楽だった。

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