赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
手ぶらじゃ何だから、俺がここなら間違いないだろうと思っているスイーツ専門店のケーキを手土産にまたあの番号に電話した。
『別にそんな気を使わなくてもいいんだけどな?』
…って。
ちょっと…嬉しそうだった?ってのは、気のせい?
ってぐらい、口調は柔らかかった。
「何か飲むか?」
俺の手土産のためか、それとも今日はたまたま機嫌が良かったのかは分からないけど、いそいそとお茶の用意までしてくれた。
「どんなものが好きなのか分かんなかったし、適当に選んだんだ。」
そんな俺の言葉なんて聞こえてないみたいに彼は目をキラキラさせながらケーキを見ていた。
「何か…食うのが勿体ないな?」
「でしょ?俺のイチオシ。」
「…そっか。」
「それよか、今から寝るとか言ってなかったっけ?」
「俺、そんなこと言ってたかよ?細かいことはいいから早く食わせろよ?」
その一言に俺はケーキを箱ごと取り上げた。
「え?あ、おい、ちょっと!」
「何その態度?」
「あ…わ、悪かったよ。」
バツが悪そうに頬を掻きながら彼は謝罪した。
まあ、いっか。ケーキぐらいであんなにはしゃぐ姿も見ちゃったし。
「いいよ?許す。」
ちょっと上からな俺の物言いに気付かないぐらいにケーキにご執心だったようで、
ケーキの箱をテーブルに置くや、彼はすぐに一口頬張った。
「美味しい?」
「ああ、めっちゃウメェな?」
「…良かった。」
今まで何度もここのケーキを食べてきたはずなのに、今日は格別美味く感じた。
「おかわり、いるか?」
いつの間にか空になっていたカップを弄んでいることに気づき、つい頷く。
「熱いから気をつけろよ?」
「あ……」
ちょっとぼんやりしてたのもあって、渡されたカップを取り落としてしまった。
「あーあ、だから言っただろ?気をつけろ、って?」
「ごめん…」
淡い色のカーペットに出来たシミに目線を落とした。
「ここはいいから、手、冷やしてこい。」
「あ……う、うん。」
「早く冷やさないと後々までヒリヒリするからな?」
「ホント、ごめん。」
「あ~ズボンもシミになってんな?洗濯してやっから脱げ。」
「えっ?」
「早くしろよ?取れなくなっちまうだろが?」